九番隊の隊舎にある綺麗な草木花が植えられた小さな庭の隅。
彼は、そこに小さくなるように膝を抱えて座り込んでいた。
69の意思を継ぐ者
昨日の内にまとめておいた書類を隊長の印がいるものといらないものとに分け、
更に副隊長以上の閲覧禁止書類を抜いて、未処理箱へ入れてゆく。
朝一番にルキアが九番隊隊舎でする業務。
その後、時間が余ると隊首室に置かれている机を乾拭きし、
畳を箒で掃いて埃や塵を捨てる。
だが、その日はいつもの様に隊首室の掃除をしていて、
集めたゴミ(といっても彼は部屋を汚さないので本当に蟻の涙程にしかないが)を
部屋の外に捨てようとした時だ。
感じ慣れた、どこか安心する霊圧を微かに感じた。
「…?」
おかしい。
彼がここへ来るのにあと5分くらいは時間があったはず。
何かあったのかと思い、ルキアは箒を持ったまま彼の霊圧に導かれるようにして近づいていく。
隊首室の真裏に位置するそこに、彼はいた。
ちょうど彼の机が置かれている、その近くにある窓から眺められる小さな庭。
その庭の片隅に、膝を抱えて小さく、小さくなって何かを見ている。
ルキアの幼馴染と同じくらい身長はあるのにその後姿は幼子を想像させ、少し笑ってしまう。
彼はルキアが後ろにいるのに気がついているのだろうか。
全く気にする様子も、気づいている様子も伺われない。
その場にただ立ってだけなのも暇なので、声をかけてみた。
「檜佐木隊長、おはようございます」
瞬間。
微かながらに彼の肩が揺れた様に見えた。
その証拠に、こちらをそのままの体勢で顔だけで振り返った彼の、
修兵の顔には驚いてます、と書かれていた。
「あ、あぁ…おはよう朽木」
何もなかったかのように振舞うので、少し笑ってから、
それに付き合うように何も見なかったようにルキアも振舞う。
「何かあったのですか?今日はいつもよりお早いようですが…」
「いや、いつもこのくらいには来てるぞ?」
「そうですね、いつもは後5分くらいしたら駆け足でいらっしゃるようですが、
あれは何かのとれーにんぐ、というものなのですか?」
「うっ…あれは、その何でもないんだ。まぁトレーニングでは、あるかな…は、ははは」
「やはりそうですか!流石、隊長です!恋次の奴に檜佐木隊長の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいです!」
「俺、爪に垢なんて無いぜ?」
「分かっています。例えです、例え。ところで、ここで何を見ていたのですか?
私が近づいても熱心にご覧になられていたくらいに目を奪われるものなどあるようには…」
「それがあるんだ。ここ、見てみろよ」
修兵が指をさしたのは、朝日を浴びて気持ちのよさそうな、まだ土を被っている新芽だった。
青々とした綺麗な緑色の葉についている水滴が日を反射して。
まるで光り輝いているかのように芽吹いた新しい命。
「……」
思わず言葉を失ってしまったルキアに、悪戯が成功した子供のような笑顔で修兵は言った。
「な。キレーだろ?」
「…はい、とても」
「……朽木みたいだな」
「は、……はい!?私ですか!?」
「小さいのに、頑張って土から出て、太陽を浴びて輝いてる。なんかに似てるなぁって考えてて、
朽木に声掛けられて、ああ、お前に似てるんだって。俺は思うんだけど?」
「あ、ありがとうございます…」
屈託無く笑うその笑顔。
それこそ、その新芽に似ている。
ルキアは口に出さず、そう呟く。
私が輝いているように見えるのならば、太陽は貴方です。
*おまけ*
「あーあ、よし!今日も一日頑張るか!」
「はい!…あ、ところで檜佐木隊長」
「ん?何だ?」
「これは何の芽でしょうか?」
「ああ。アレはー……いや、止めておく」
「?」
「……………世の中にはな。知らない方が幸せって事があるんだよ」
「はぁ…」
実は阿近さんがお遊びで創った新種。
ショッキングピンクの色だった為、処分に困り埋没。
忘れた頃に芽が出てきて、ルキアの言葉で思い出す。
抜くにもルキアが毎日水をあげる様になってしまい抜けなくなってしまった。
修兵の心配を余所に花が咲くのを楽しみにするルキア。
ほのぼのが台無しだよ!←お前だよ!