「今度の休みにでも遊びに来いよ」

そんな事を言われて行かない奴がいたら見てみたい、とは修兵の心の叫びである。









お家デート+α




現世調査の当番が九番隊の時に、何かと理由を付けては彼等のいる倉庫に顔を出していた修兵。
道はばっちり脳にインプットされている。
(ちなみに、修兵はこっそり顔を出しに行っているつもりだが、九番隊の隊士達、 特に三席〜五席あたりにはバレていて、修兵の行動は暗黙の了解となっている)
現世に行くので一応、義骸に入る。
その為には十二番隊に申請を出すのだが、阿近に申請書を渡したら変な顔をされた。
そして言われた言葉が「休みを休みとして過ごすのか?」だった。
普段どれだけ休日返上で仕事をしているかが窺(うかが)える。
いつも返上してる訳じゃない、とは修兵の言い分だが、明らかに返上の回数の方が多いだろう。

「最近は前みたいに仕事が追いつかないってことが減って休みも結構取ってるっつーの…っと、ここだ」

歩きながら考え事をしていたら、目的地を通り過ぎてしまうところだった。
一見ただの使われていない倉庫だ。
真っ直ぐ腕を前に伸ばして"触れる"。
とぷん、波紋のようなものが広がり、そのまま中に入っていく。


「修兵やんけ、元気にしとったか?」
「真子さん!」

中に入ると真子に会った。
だが他の人たちが見当たらず、きょろきょろと見回す。

「…あれ?他の人たちは?」
「あー、今買い出しに行っててなぁ…特売がどうの言うとったから、多分遅くなると思うで?」
「そうですか…」

しゅん、とうなだれてしまった修兵の頭に手を置き撫でる。

「まぁ、拳西なら直ぐ帰ってくるで?単に飯買いに行っただけやからなぁ」
「?……!、真子さん!!」

からかわれた、と分かったのは真子が意地悪い笑顔で笑ったからだ。

「すまん、すまん。どうせ連絡してるんやろ?拳西が修兵に関した約束を忘れる訳ないやんけ。 ホンマ可愛いやっちゃのぉ〜」
「連絡したから、吃驚したんじゃないですか!」
「おー、そうか!忘れられたんかと思って寂しくなったんやな!」

にやにや笑う真子に、もう何を言ってもからかわれるだけだと判断した修兵は黙ることにした。

「なんや、黙らんでもっと喋らん?」
「嫌です」
「なぁ、修兵〜、みんなおらんくてやることもなくて暇なんやけどもぉ〜」
「知りません」
「……お、拳西」
「え!?」
「う・そ」
「…………っち」
「きゃー!修兵に舌打ちされたー!」
「…」

相手にしないようにしても、真子の口車に乗せられ、暇潰しに付き合わされてしまう。
殴ってもいいかな、なんて考えたことは内緒だ。

「あ、拳西や。修兵、拳西帰って来よったで」
「騙されません」
「いやホンマやって」
「騙されませんよ」
「修兵」
「……」
「修兵、」
「っ、しつこいで、す…よ……」

同じ手をくらうほど馬鹿ではない。
馬鹿ではないが、確認をしなかったのは拙(まず)かった。
修兵の背後にいて、声をかけたのは真子ではなく、拳西本人。
真子は拳西の後ろで笑いを我慢して震えている。

「…悪かった、な」
「(ぎゃああああああっっっ)ちちちちちが、ちがっ、けん、…っ真子さん!!!!!!」
「ぶっふぉ!笑かすなや!!ひー、腹痛いやんか!」

げらげらと腹を抱えて爆笑している真子。
顔を真っ赤にしてちょっと涙目になって怒っている修兵。
理由は分からないが、真子が修兵にちょっかいを出していたのだと、判断して溜め息を吐く。
適当にあしらっておけばいいものを、真面目に応えるから真子が調子に乗るのだ。
昔から真子にからかわれては怒ったり泣いたりしていたのを思い出し、今と変わらない二人に更に溜め息を吐いた。

「…修兵、それ以上真子の相手なんかしなくていいから」
「ぅ…はい」
「何や拳西、ヤキモチか?」
「アホか」

一言だけ残し、修兵を連れて部屋に行ってしまった拳西。
その姿が完全に見えなくなるとぽつりと呟く。

「……やから修兵にちょっかいだしたくなんねん」



無言で修兵の腕を掴み前を歩く拳西。

「……拳西さん、」
「………」
「お、怒ってる?」
「…あ?」

くるり、振り返った拳西は思い出したかのように掴んだままだった腕を離した。

「わりぃ、何か言ったか?」
「(聞いてなかっただけかよ!)…何も」
「飯何が良いか聞かなかったが、何でも良いよな?」
「俺、ご飯まだって言いました?」
「いや、言ってねぇな。でもお前のことだから食べずに来ると思って…つか、また痩せただろ」
「え?さぁ、どうだろ…」
「さっき掴んだ腕が細くなってた気がした」

台所に買ってきた食材を袋から出し、手際良く調理していく。
その背中を見ながら大人しく椅子に座って待つ。

「よく分かりますね」
「腕じゃなくて、腰掴めば一発なんだがなぁ」
「こ、腰って…!」
「ガリガリのお前を抱いても癒されねぇ。おら、これ食って肉つけろ」
「…!!…、!…………イタダキマス」
「おう」

拳西の発言に顔を真っ赤に染める修兵。
金魚みたいにパクパク口を開閉したが、言葉が出てこず、 諦めて目の前に置かれた食欲をそそる匂いを放つご飯を食べ始める。
拳西の作るご飯は美味しい。
肉をつけろ、と言うだけあってボリュームがあるが、残すことなく食べる。

「御馳走様でした」
「お粗末様…ぶっ、」
「!?」

ほっぺにご飯粒を付けて満足そうな顔をする修兵を見て、思わず吹き出す拳西。
いきなり笑われショックを受ける修兵に手を伸ばし、ご飯粒を取る。

「あ…」
「頬にご飯粒付けるなんて器用だな」

そのままペロリ、食べてしまう。
拳西としては勿体ないという理由故の行動だったが、修兵にとっては恥ずかしい事この上なく、 顔を手で覆い隠して俯いても仕方のないことなのだ。

「?どうしたんだよ、修兵」
「何でもない…食器は俺が片付けます」
「ああ、わりぃな」



「…今日はどこにも行かないのか?」

食器を片付け終わるまでの間、ソファに寝そべって雑誌を見ていると、 片付け終わった修兵も雑誌を持ってソファの下に座り、読み始めた。
しばらくしても出掛けようという素振りを見せないので、気になって聞いてみた。

「うん。連休じゃないし、ゆっくり過ごすのも良いかなって…あ、もしかしてどっか出掛けたいところありました?」
「ねぇよ。珍しいなって思っただけだ」
「まぁ、たまにはね」

そう言って雑誌に意識を戻す修兵。
この所忙しくてゆっくり休む暇がなかったので、今日は家デートをしようと決めていた。
拳西も出掛けないなら、と再び雑誌を読み始める。
だが、しばらくすると、雑誌を読み終わった修兵が動き始めた。
視界の隅で何をするのか見ていると、仰向けに寝そべる己の上に寝そべるなどという荒技に出た。

「……硬い」
「ったりめーだ」
「んー、でもちょうどいい、硬さ…」
「…修兵?」

とろんとした目に、舌っ足らずな喋り方。
不安を覚えて名前を呼ぶが反応がない。
どうやら腹が満たされて眠気が来たらしい。
とりあえず、修兵が落ちないように片手で支えながら雑誌を読む。


「…あいつら静かやなぁ」

ジャズを聞いていた真子が思い出したかのように呟く。

「よし。覗いたれ、俺」

拳西達の居るであろうソファの方へ忍び足で近寄る。
ソファからは拳西の足と、もう一つ、足先しか見えないがはみ出ている二人分の足を発見して にたり、意地の悪い笑みを浮かべる。

「(仲良しの最中やったかぁ?)」

だが、見れども見れども動く気配が見られない。
話し声どころか囁く声すら聞こえない。
不思議に思った真子は怒られるのを覚悟で、そうっと近寄る。

「!…しゃぁない、何か掛けるモン持って来たろうか」

真子が見たのは、昔のデジャヴ。
拳西のお腹の上で気持ちよさそうに眠る修兵と、 修兵が落っこちないよう片手で支え、雑誌を読んでる途中で寝たのか顔に雑誌を乗っけて眠る拳西。

「っと、その前に…」

カシャ。









後日、修兵の元に届いたのは、眠る自分と拳西の写真。
拳西の顔に乗っていた雑誌はなくなっており、寝顔がばっちり見える。

「ぶっ!?…!!!??」
「ぎゃ!!ちょ、先輩!こっちに吹き出さないで下さいよ!!…先輩?」
「ああ、うん…悪い…」

ぼたぼたと顎から伝い落ちるお茶を拭ったまま動かない修兵。
顔を上げられるわけが無い。

「(俺、今、絶対に顔赤い…)」












ソラ様 9000キリリク『軍勢拳西と副官修兵のお話』
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございませんでした!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
ソラ様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!

2010.05.19


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