「この際だ、ハッキリさせておく」
腕を組んで仁王立ちして言葉を発するのは九番隊隊長に復帰した六車拳西。
我が子のように可愛がって育てた修兵に毎日のように迫る恋次に向かって。
「修兵を恋人にしたいなら条件がある」
「………」
緊張した面持ちで拳西の言葉を待つ恋次。
「一つ、卍解ができること。二つ……俺より弱い奴に修兵は、やらねえ!!!」
「え?…っぎゃーーーーーーーーーっっっ!!!」
「ええ!?ちょ、拳西さん!!?」
拳西の虚化の右ストレートを不意打ちで喰らい、吹っ飛んだ恋次。
目の前の出来事に修兵は慌てた。
「修兵がほしい奴は、俺より強くなって出直して来い」
「だからっていきなりは駄目ですよ!」
息子さんを嫁に下さい!!
日番谷は焦っていた。
初めて顔を合わせた日から密かに修兵を想っていた日番谷。
藍染の謀反(むほん)から九番隊の援助などを受け、少し距離が縮まってきたと思っていた。
その矢先に出張ってきたのが恋次だった。
霊術院の時の事件が切っ掛けで仲良くなったと聞いていたが、恋次のそれは憧れの先輩に向ける目ではなかった。
おそらく、修兵に片思いをしている者同士だからこそ、日番谷には分かったのだろう。
現に、相手にされない時もあれば、邪魔だと言って殴り倒されている時もあるのに、
毎回毎回めげずにアタックし続けている。
傍から見ても恋愛対象として見られてるのではなく、後輩の愛情表現として見られているのは明らかであるのに。
「(阿散井はあれでも一途だからな…それに、)」
自分の手を見て溜息を吐く。
日番谷が焦っているのは、恋次みたいに好きだ愛しているだの気持ちを素直に相手に言えない事だ。
だから地道にまずは信頼関係を築き上げてから、と思ったのだ。
気持ちを伝えるだけでは駄目だということを知ったから。
自隊の隊長が裏切ったことに酷く落ち込んで傷ついていた時、弱音を吐いて涙を見せてくれた。
そのことが少し自信につながった。
だが、弱っているところに付け込むような真似をしたくなかった日番谷は、結局気持ちを伝えていない。
後から考えると、あの時が告白のチャンスだったような気がしてならない。
現在は拳西が九番隊隊長に戻っているので、会う回数も前に比べると減っている。
これも焦る理由の一つだ。
ずるずる、冷めてしまったお茶を啜る。
窓から空を見上げた瞬間、どかん、爆発のような音が響いた。
この音も最初は聞こえる度に九番隊に駆け込んでいたが、今では慣れたもの。
音が聞こえても驚くことはなくなった。
「また阿散井が挑んで行ったのか…」
「これで12回目ですよ〜、もう煩いったら…隊長からも言ってやってくださいよぅ!
これじゃあ仕事に集中できませ〜ん!」
「……静かでも仕事しない奴に言われたかないな」
「え〜!?ちゃんとしてますって!ほら、今日の分はちゃんと終わったんですから!」
日番谷の独り言に返事をしたのは乱菊だった。
ばさり、置かれた書類に目を開いて驚く。
内容を確認してみても、ちゃんと書いてあり、誤字脱字もない。
「松本…これ、」
「たいちょ〜、恋愛は相手を尊重するのも大切ですけど…気持ちを伝えるのは別に尊重しなくてもいいと思いますよ」
「だが、迷惑に思われたら…」
「その時はその時ですよ!気持ちを伝える前に、修兵を誰かに取られてもいいんですか?」
「……嫌だ」
「なら、悩む前に戦いましょ!」
ほらほら、と日番谷の背中を押して執務室から出そうとする乱菊。
出入り口の前でそれはなくなった。
行くも行かぬも、日番谷の意思で決めること。
乱菊は優しく背中から手を離す。
「松本」
「なんでしょう」
「……行ってくる」
「応援してますよ!」
乱菊が言い終わるか終わらないかのタイミングで、日番谷は瞬歩でその場から離れた。
「まったく、世話の焼ける上司だわ」
あの乱菊との会話以降、日番谷から包帯や湿布などが取れることが稀になった。
あの日、日番谷が修兵の姿を見つけた時、拳西と一緒にいた。
息を切らせて駆け寄る日番谷に何かあったのかと驚く修兵に日番谷は告げた。
「お前に、言いたいことがあって…」
「俺にですか?」
「ああ…」
拳西を真っ直ぐ見た後、真剣な面持ちで修兵を真っ直ぐ見る。
「修兵、お前が好きだ」
「……え?」
「な!?」
「返事は直ぐにとは言わん。どうせ六車に勝たなきゃ付き合うこともできねぇんだ。
だから、その間考えておいてくれないか?」
「あ、はい…」
混乱している修兵を見てその日は何もなく終わった。
だが翌日から昼の休憩時や終業後に拳西に挑む日番谷の姿が見られた。
恋次が挑む時にはいない方が多い修兵の姿も一緒に。
「天才じゃなかったのか?そんなんじゃ俺は倒せねぇぞ」
「っ、く…そ……」
「日番谷隊長、拳西さん、今日はもうそのぐらいに…」
「あ?ああ、そうだな。先に帰ってる」
「はい」
拳西は日が沈みかけているのに気がつき、虚化を解く。
散々痛めつけられた日番谷はがくりと膝を折って地面に手をついた。
そこに修兵が傷薬などの入ったカバンを持って近寄る。
前に巻いた包帯が泥だらけになって汚れ、包帯の意味を成していない。
まずはそれを外し、新しい包帯を消毒しながら巻いていく。
次に切り傷に傷薬を塗って絆創膏を貼る。
「…なんで、こんなになってまで挑むんですか?」
いつも無言で日番谷の手当てをする修兵が、口を開いた。
その質問にきょとん、となりながらも答える。
「お前が、檜佐木修兵が好きだからだ」
「違いますよ。俺が言いたいのは、虚化には虚化で戦わなければ勝てないのにっ、
負けると分かってて何故挑むのかってことです!」
辛そうに表情を歪めて吐き出す修兵。
握り締められた手は白くなっていた。
その手の上に、そっと自分の手を重ねる。
「…邪魔は少ないに越したことはない。それに、俺が勝てばお前もちゃんと守れるって自信になりそうでな」
「俺は!……守られてばかりも嫌だし、邪魔する人は無視すればいいんです…アナタが怪我をしている所を見るのが、
嫌なんだってこと…気がつけよっ」
「え?」
重ねた日番谷の手をゆるゆると握り返す修兵。
その顔は夕日の所為だけではないくらい赤い。
「お、俺の気持ちは無視ですか?」
「無視も何も、返事は聞いてな、い…」
急に修兵の顔が近づいたと思ったら、唇に柔らかい感触が触れて離れた。
咄嗟の事で驚き固まっていると、修兵が口を開く。
「いつの間にか好きになってました、日番谷隊長」
「…そこは冬獅朗って呼ぶところだろ」
「はは、好きだ冬獅朗!」
「俺も好きだ、修兵」
繋いだ手はそのままに。
夕日に染められたそれぞれの小指が、赤い糸の代わり。
運命の赤い糸が絡まった。
それは、愛の始まり。
「なんやねん、やっぱり好き同士やないかいあの二人」
「気に入らないからあって、あんまイジめんときぃや。その内愛想尽かされるで」
「そうだよ、まるで拳西が悪者じゃないか。そんなの美しくないと思うよ?」
「…修兵が良いって言うならいいんだ…ただ複雑でな、腸が煮えくり返りそうだ」
「ほんなら、赤パインボコったれ」
「赤パイン?」
「阿散井とかいう兄ちゃんや!」
「ああ、未だに拳西に挑みに来る、あの?」
「そうや、いたな」
「そうだな…アイツは頑丈そうだし、ちょうど良いな…」
「よっしゃ、そうと決まればシバき倒しに行くで!」
「ひよ里、アンタ何そんなイラついてるんや?」
「べ、別に修兵取られたはらいせちゃうからな!!」
「なんや…拳西みたいに愛息子取られて悔しいのと同じやんか」
「ちゃうわ!!拳西と一緒にすんなアホ!!」
「はいはい、そういうことにしといたる。アタシも同じやしな」
「……流石に阿散井君もこの人数で行ったら死んじゃうって…」
「ローズ!はよせんと置いてくで!」
「ハッチを呼んでおくか…」
奈々様 8800キリリク『日修で日番谷の告白から両思いになるまでの話』
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございませんでした!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
奈々様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!