「心拍、霊圧共に低下しています!!」
「強化剤投与!!それと増血剤も!!」
「技局からの解毒剤はまだか!?」
「連絡ありません!!」









Sex changed.




慌ただしい手術室で治療を受けているのは、生気のない、 まるで死体のような顔色をした九番隊副隊長の檜佐木修兵。
虚討伐任務の報告書にないイレギュラーにより、虚の毒を受け重傷を負った。
毒を受けてから時間が経ちすぎたのか、回りが早かったのか、 四番隊に運ばれた時点で既に瀕死の状態で、直ぐ卯ノ花が呼ばれ治療が始まった。

「解毒剤きました!!」

その一言に安堵が浮かんだのは無理もないだろう。
治療中に何度もその活動を止めようとする心臓を、なんとか持ちこたえさせていたのだから。
虚の毒は思っていたよりも厄介で、いくら傷を塞いでも、また同じ場所から出血してしまっていた。
これで出血が治まれば一命をとりとめられるのだ。
隊士から解毒剤を受け取り、注射器で注入していく。
薬が全てなくなると同時に勢いよく扉が開かれ、 入ってきたのは技局のリーダー的存在の阿近。
余程急いできたのか、肩で息をしている。

「ちょっ、治療中ですよ!?何事で「遅かったか…」
「…え?」

ずかずかと治療台に近寄ると、白衣のポケットから小瓶を取り出し、注射器を勝手に使って修兵に注入しはじめた。

「っ!?な、何してるんですか!」

隊士の一人が阿近を止めようと手を伸ばすと、不機嫌丸出しの据わった目で睨む。

「あぁ?…こっちが本物の解毒剤なんですよ。今アンタらが投与したのはウチの未完成の新薬」
「な!?」
「毒の方は今打った薬で大丈夫ですが、新薬の方がどんな反応がでるか判断しかねるので、 万が一に備えて俺が同席して対応します」

言い終わるなり壁に寄りかかり、出て行く様子は皆無。
隊士達は黙ったままの卯ノ花を見やる。

「………分かりました。お願いします。さあ、皆さん。治療の続きを…?」

卯ノ花が治療再開を促(うなが)すと、ひくり、意識の無いはずの修兵の手が動いた。

「卯ノ花隊長!」
「!?……これは…阿近さん!」

何かに気が付いた隊士が卯ノ花を呼ぶ。
卯ノ花が見たのは、治療していないにも関わらず、時間を巻き戻しているかのように塞がっていく傷口。
解毒剤を投与した効果ではないことは明らか。
すぐさま阿近を呼んだ。

「っち…おい、暴れるかもしれないから押さえつけておけ」
「阿近さん、一体何が起きているのですか?」
「傷が勝手に塞がっているのは、細胞が活性化している証拠なんで、予想パターン1もしくは2ですね」
「…その予想とは何かお聞きしても?」

流石に火を点ける様子はないが、口寂しいのか、落ち着かないのか、煙草を口にくわえていた。
修兵の首に指先を当て、脈を診た。
通常の脈拍より少し早く、呼吸も浅く短い間隔に変わってきている。
そのことに眉間の皺を増やして口を開いた。

「……細胞活性化が見られた際の予想パターン1、見た目が幼くなる。パターン2、性別が変わる。 まぁパターン1だと成長剤でも作れば元に戻るんですが、パターン2であると元に戻る術は…ありません」

びくり、大きく修兵の体が震えた。

「…鎮静剤打っておけ。来るぞ」

機械がけたたましく音を鳴らして異常を告げる。
近くにいた隊士が画面を見た。

「脈拍に異常!!どんどん上がっていきます!!」
「っぅ、…ぁぐ!…ぁあああぁああああぁぁあああぁぁあっっ!!!」

酸素マスク越しに苦しそうな悲鳴が響く。
暴れようとする体を押さえる隊士に、鎮静剤を投与する隊士を見て卯ノ花が阿近に詰め寄る。

「阿近さん!」
「細胞が物凄い勢いで動いてるんです。おそらく、体が引き裂かれるような痛みと苦しみを感じているんでしょう …例え意識が無くても。我々にできることは、コイツが死なないように見張る事だけなんです」
「…っきゃあ!」

腕を押さえていた女性の隊士が、押さえきれずに飛ばされてしまった。
無意識であるが故に、力の加減などできるわけがなく、ましてや苦しんでいるのだから、 火事場の馬鹿力と同じ様なもの。
自由になった手は、胸をかきむしる様に動く。
胸にはまだ塞がっていない傷口があり、そこをもろに引っかいてしまい出血を酷くして、 血に濡れた手を振り回すものだから辺りは酷い有様だ。
それを見た卯ノ花は動きを止めるため、ある行動にでる。

「縛道の一、塞!」
「う゛あああぁぁあっっ!!あ゛ぁっ、がっ…!!」
「さあ、今の内に治療を!」
「は、はい!」
「…大胆な事しますね」
「そうですか?私は最善の処置だと思いますけれど」
「………」

にっこりと笑って返されては流石の阿近も何も言えなかった。



修兵の体の変化には二日かかった。
途中水を飲ませたり、点滴で栄養を補ったりした為危険な状態からは脱していたが、 二日もの間細胞の急激な変化で体を千切られるような激痛に見舞われていたのだ。
最後の方は声も出せないほど体力を消耗しており、痛みが引くと気絶同然に意識を飛ばし眠りに落ちた。

「…、」

目を覚ますと、白い天井が入り込んだ。
見慣れた自分の部屋の天井でないことに首を傾げる。
記憶を辿ろうとした所に声をかけられた。

「あ、目が覚めたんですね!どこか痛いところはありますか?」
「……山田七席?」

声をかけてきたのは四番隊第七席、山田花太郎。
あまりにも修兵がきょとん、としているからか、笑顔がだんだん曇っていく。

「あの…もしかして、覚えていらっしゃらないのですか?」
「いや、虚を倒したとこまでは……?」
「どうかされました?」

話の途中で言葉を突然止めて、喉を押さえる。
自分の出した声がいつもより高く感じたからだ。

「…な、んでもない」
「そうですか?では、僕は卯ノ花隊長を呼んできますね」

治療後だから声がおかしくなっているだけだと判断して、花太郎が出て行くのを扉が閉まるまで見送った。



「……!!!??」
「驚くのも分かります。残念ながら、貴方の体に起きたことは、紛れもない…事実です」
「技局の薬だ。何が起きてもおかしくはなかったが…これは、まだマシな方だ」
「…そ、んな…」

卯ノ花と共に来たのは阿近だった。
義眼に関わるなら分かるが、今回は何もなかったはず。
なら、何故か。
簡単なことだ。
技局の薬が絡んでいたからだ。
大きな鏡に映るのは確かに己であるが、その体は見慣れぬものに変わってしまった。

「…幼くなるなら成長剤を作ればいい話だが、性別が変わるのは体に負担をかけすぎる。 故に、例え同じ薬を作って投与しても、元には戻れない。免疫がついちまってるからな」
「今の所、霊圧などには変わりがないようなので死神として、副隊長として、十二分にやっていけると思います」
「体力、握力なんかは女のものだ。身長も縮んでる」
「…………」

そう、修兵を二日間苦しめたあの薬は、修兵を男から女にしてしまったのだ。
ショックで声が出ないのか、混乱しすぎて声が出ないのか。
あるいはどちらもか。
ただ俯いたまま動かない。

「…すまない、修兵」
「……なんで阿近が謝るんだよ。事故だろ、仕方がないって。 業務に支障がないならいいんだ。今俺が抜けたら九番隊は回らないしさ。 女になっただけでしょ?大丈夫、生活はあんまり変わんないから!」
「そうか…」

明るく振る舞い、珍しく表情から申し訳なさが伝わってくる阿近に笑いかける。
そんな修兵を抱き締めた。

「あ、阿近!?」
「何かあれば俺の所に逃げて来い」
「……ありがとう」

修兵が女になってしまったことは直ぐに知れ渡たり、その事実を知るや否や、目の色を変えて男性陣は愛を告げに来た。
代表は六番隊副隊長の阿散井恋次、十一番隊隊長の更木剣八、十一番隊第三席の斑目一角だ。
最初は戸惑って阿近の所へ逃げるだけだった修兵だが、最近では鬼道を使って拒絶しているらしい。

「先輩!今日こそ俺の愛を受け取って下さい!!!!」
「くどい!!縛道の四、這縄!!破道の十一、綴雷電!!」
「ぎゃっ!!?」
「破道の五十八、闐嵐!!」

ばちぃっ、体の自由を奪われ更に電撃を受けた恋次は、体から煙を上らせて気絶し、 竜巻の風によって彼方に吹っ飛ばされた。
恋次の吹っ飛ばされた方向を見ながら、肩で息をする修兵に近寄る影があった。

「派手に飛ばしたなぁ」
「日番谷隊長…」

現れたのは十番隊隊長の日番谷冬獅郎。

「何ですか?冷やかしなら足りてますから結構です」
「随分な言い方だな」
「嫌でもそうなりますよ。俺が女になったから面白がってるんです。真面目に言ってないから余計頭に来るんだ」
「……気の毒に」
「何か言いました?」
「俺は至って真面目に言うからな!」
「はい?」
「檜佐木、お前が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」

いきなりの日番谷の告白に、目を見開く。
真っ直ぐに修兵を見るその目には嘘も偽りも見られない。
だが、そんな素振りは今までに一度もなかった。
俄(にわか)に信じがたい。
戸惑いを見せる修兵に、日番谷はくるり、背を向けた。

「今すぐ返事を、なんて言わないさ…だが、絶対俺に惚れさせてみせるから覚悟しとけ」

そのまま来た道を戻り去って行く。
だから日番谷は知らない。
修兵の頬がほんのり赤く染まっていたことを。

「……ど、どうしよう…」

胸元をぎゅっと掴み、赤い顔のまま阿近の元に走る修兵の表情は今にも泣き出しそうだったが、 それを見たのは技局の人たちだけ。
阿近の心配は増加の一路を辿るばかりだ。

「…いっそ彼奴等を葬り去ればいいんじゃねぇの?」
「……一応隊長格の人たちなんだから止めような。気持ちは嬉しいけど…」













撫子様 7900キリリク『2000キリ番小説の設定で女体化話』
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございませんでした!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
色々オイシイ設定を活かしきれず申し訳ございません…。
撫子様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!

2010.05.11


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