「修兵、明日ウルキオラとグリムジョーに付いて行くのは本当かい?」

王座に座る藍染の膝の上に座り、甘えるように首筋にすり寄る修兵。
とろり、ととろけそうな目を藍染に向け、首を傾げた。

「…駄目?」
「駄目、と言っても行ってしまうのだろう?」
「だって俺も藍染さんの役に立ちたい…」

悲しそうに目を伏せてしまった修兵の頭を優しく撫でる。

「嬉しいね…でも、教えただろう?二人の時は?」
「あ…そ、惣右介さん…」

撫でる手を顎に添えて上を向かす。
額、瞼、頬、口の順でキスを降らせた。

「俺、惣右介さんの役に立ちたい…」
「…仕方ないな」
「やった!」

根比べは修兵に軍配があがり、藍染が許可を出すと嬉しそうにはしゃぐ。
そんな修兵に条件を出す。

「ただし、危なくなったら直ぐに帰ってくるんだよ?私の修兵に何かあってからでは遅いのだから…」
「分かってます。無理はしない、でしょう?」
「そうだよ。そして必ず私の所へ帰ってくるんだ。いいね?」
「はい、惣右介さん…」









Please, I watch only me, and do love only me? 2




虚圏から現世の人気のない森のような場所に出ると、死神たちが既に待ちかまえていた。
今の修兵には上半面だけの黒い仮面が付いている為に、死神にはその人物が修兵と気づく者がいないようだ。

「待っていたぞ、破面」

その言葉にフン、と鼻を鳴らしたのはグリムジョー。

「わざわざ来てやったんだ。楽しませてもらうぜ」

そう言うなり、すらり、と斬魄刀を抜く。
修兵も黙って斬魄刀を抜いた。
ウルキオラは手を出さないのか、その場から動く素振りもない。

「暴れすぎるなよ…俺の分がなくなる」

小声で呟かれた修兵の言葉に驚くも、笑いがこみ上げるグリムジョー。
口の端が上がるのをそのままに視線を修兵から死神に戻す。

「上等だ」

襲いかかってくる死神を、次々に斬り伏していく。
張り合いが無さ過ぎてちらり、と修兵の方を盗み見る。
ちょうど最後の一人を斬ったところで、刃に付いた血をひゅん、と振り払って鞘に収めていた。
表情は見えないがきっと綺麗に笑っているのだろう。
グリムジョーも最後の一人を斬り伏せようと斬魄刀を振り下ろそうとした。

「破道の三十一、赤火砲!!」
「!!」

だがそれは、飛んできた鬼道により未遂に終わった。
ばちん、と素手で弾く。
鬼道の飛んできた方向を見れば、新たに死神がそろって現れていた。

「そこまでだ、破面」
「はっ、隊長格のお出ましか」

現世に調査をしにきていた日番谷、乱菊、阿散井の三人とグリムジョーがにらみ合い、 両者とも一触即発の雰囲気だったが、その空気を壊したのは修兵だった。

「いっ、てぇ…あーあ、折角藍染さんがくれた仮面が割れちゃったじゃんか」
「「「!?」」」

修兵の方を見れば、ぺたりと地面にしりもちをつくような格好で座り、 膝の上には焦げ跡の残る仮面の破片が散らばっていた。
おそらく、先程グリムジョーが弾いた鬼道が修兵に飛んでいき、避けきれずに当たってしまったのだろう。

「ボケッとしてんのが悪ぃんだろ」
「あー、ひでぇ」

けらけらと仲良さそうに話し、笑う修兵を見て三人は愕然としていた。
三人とも顔には信じられない、という表情をあらわにしている。

「あ、日番谷隊長、乱菊さん、恋次。久しぶり」
「先輩、何して…!」

思ったことがつい口に出た、という様子の恋次にきょとん、と首を傾げた。

「何って、邪魔者排除だけど…ああ、まぁ、そんな訳なんで、死んで下さいね?」

ひゅん、と飛んできた風死を寸での所で避ける。
綺麗なまでの冷笑。
修兵も裏切るのか、そう思われたが、藍染達が空の向こうに姿を消した日、 修兵は東仙に縛道で動きを封じられた上、気絶させられた状態で「連れ去られた」のだ。
気絶させられるまでは激しく抵抗していたのだから、あれは演技ではない。
では何故、自分たちに攻撃を仕掛けてくるのか。
それに気づいたのは恋次だった。

「先輩、左頬の刺青どうしたんスか!」
「左頬…?顔の刺青はこれだけだろ」
「え?だってあんなに…あんなに、嬉しそうに話してたじゃないですか!なのに、忘れちまったって言うのかよ!!」
「何だよ、何の話してんだよ?」

本当に分からない、という顔をする修兵。
だが以前、69の刺青を入れた理由を恋次は聞いたことがあった。
昔、虚に襲われたとき、腹に69の刺青を入れた人に助けられ、 死神になる切っ掛けにもなった人を真似たのだと、とても嬉しそうに、でも照れ臭そうに話していた。

「名前も知らないけど憧れだって、69の刺青を入れて喜んでただろ!!」

鍔迫り合い(つばぜりあい)の状態で恋次がほえる。

「ろ、くじゅう…きゅう……」
「!」

ふ、と修兵の力が弱まり、危うくバランスを崩しそうになるも、踏鞴(たたら)を踏んで耐える。
左頬に手を当てて、どこか虚空(こくう)を見る修兵。
動きは完璧に止まった。

「修兵、余計なことは考えるな」
「余計な、こと…?」

それまで黙って動かなかったウルキオラだが、修兵の様子がおかしいのに気づき、口を開く。
その声に反応して、ひくりと揺れる。

「違う…余計なことじゃない、大切な……俺は、っつ!」
「先輩!」

頭を抱えてうずくまってしまった修兵。
突然のことに驚く恋次だが、我に返ると修兵に触れようと手を伸ばした。
だが、伸ばした手は空気を掴むだけに終わった。

「グリムジョー、戻るぞ」

いつの間にかウルキオラに肩を抱かれて恋次から数歩離れた場所にいる。
日番谷と乱菊を相手にしていたグリムジョーに一言声をかけると、 その声で修兵の様子に気づき、直ぐに修兵の横に移動した。
移動するなり頭を抱える修兵の鳩尾に一突き入れ、気絶させると脇に抱える。

「お前等に一つ、教えてやる」
「…何をだ」
「コイツは藍染さまのモノだ。身も心もな」
「!!」

ウルキオラの言葉に苦虫を食べたような顔をしたのは日番谷だ。
修兵が着ているのは、死覇装ではなく破面たちが着ている白い服。
それは死神ではなく、彼等の仲間だと言っているようなもの。
だが、先程の様子からいって、洗脳か記憶を変えられているのは明白だった。
つまりは、変えられる前は拒絶していたということ。
今でも奥底に閉じ込められた心は「やめろ」と叫んでいるのかもしれない。
空の向こうへ消えた三人を見上げたまま、強く拳を握る。

「絶対、取り戻してやる…!」








かつん、と一人分の足音が響く。

「只今戻りました、藍染様」
「やあ、おかえり。早速だが報告を」
「はい」

ウルキオラが己の目を取り出し潰す。
目を瞑り、脳裏に移る映像を見る。

「……時間が解決すると思っていたが、やはり記憶を操作するのは難しいか」
「特に頬の刺青に関しては強く反応しています」
「…そうか。ご苦労、下がって良いよ」
「失礼しました」

ウルキオラの気配が完全に消えるのと同時にぽつりと呟かれる言葉。


「……………心を壊してしまえば、君は手にはいるのかい…?」












蒼様 6400キリリク『2800キリ番小説の続き』
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございませんでした!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
蒼様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!

2010.03.04


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