You are anxious.
「38度3分…完全に風邪ですね」
ゴホゴホ、と痰が絡んだような咳と、ずるずると鼻を啜る音が部屋に響く。
音の発信源は部屋に敷かれた布団に横たわっている人物。
年中腕を出していて風邪とは無縁の人物だと思われそうだったが、
この状況がそのイメージをことごとく壊していた。
九番隊副隊長、檜佐木修兵である。
「にしても、檜佐木副隊長が風邪だなんて珍しいですね?」
「どーせ瀞霊廷通信の編集で無理でもしたんでしょ。本当に仕事に至っては馬鹿というか…」
「う゛、るせぇ…な…、恋次……」
掠れて聞き取りにくい声に荻堂は眉間に皺を寄せる。
「今日一日はじっとしてて下さいよ?」
「大丈夫だ、て…そもそも、動けた…ら、ココに、いねぇ」
「…そうですか。何かあったら直ぐ連絡ください」
ひらひらと、返事の変わりに手を振る。
それを見てから荻堂は恋次に声をかけて玄関へ向かった。
恋次は心配そうに修兵を見てから出て行く。
ガラガラと戸を閉める音と、鍵をかける音がすると部屋の中はとても静かになり、静寂に包まれる。
ぼんやりと天井を見つめながら昔を思い出す。
あの人に拾われてから、環境ががらりと変わり、
色々な変化に心身共に付いて行けなくなり、よく熱を出した。
しかも決まって39度前後の高い熱。
一旦熱が出てしまうと食べ物を一切受け付けなくなるのだから困ったもの。
それでもあの人は優しく看病してくれた。
熱に魘され泣いたりしても怖くないと手を握り、
朦朧とした意識の中で、伸ばされた手を敵と間違え噛み付いてしまっても、
優しく頭を撫で驚かせて悪かった、と謝る。
お見舞いだ看病だと平子や海燕やらが来ると、騒がしくて寝ても居られなかった。
でもそれが何故か楽しくて嬉しかった。
当時を思い出し、一人でフッと笑う。
「なに笑ってやがる。熱でイカれたか?」
クツクツと独特の笑い方。
「、ぁこん…」
襖に寄りかかり、こちらを見下ろしていた阿近。
久々の高い熱に襲われている修兵を見て、何が面白いのかその口は弧を描いている。
「随分とひでぇ声だなぁ、オイ」
「うるざっ、…ゴホッ、ゴホゴホッ!」
思わず声を荒げようとしたら喉が悲鳴を上げた。
なかなか止まらない咳に背中を丸くして耐える。
いつの間にか修兵の隣に移動した阿近が背中を擦ってくれた。
そういえば、昔も咳が止まらない時はいつも彼が背中を擦っていた。
「なん、で…ココに?」
「あん?桃缶が食べたくなったんだよ」
咳が止まり、呼吸を整えた後、投げかけた疑問。
どこから取り出したのかその手には桃缶が。
「わざわざ俺に教えに来た奴が居てな。ちょうど桃缶が食べたかった所だ」
一人で食うのには量が多くて、丁度いいから邪魔しただけだ。
と、まるで自分勝手な彼の不法侵入の理由に、風邪とは別に頭が痛い。
「お前は昔から熱を出すと何も食えなくなる…が、唯一、桃缶だけは食べれてたよな」
きこきこ、と桃缶の蓋を開け爪楊枝で中の桃を取り出す。
「(缶切り、いつどこから持ってきたのか突っ込んでも流されるだけかな…)」
そんなことをぼーと考えていると目の前に差し出された桃。
つやつやと甘い蜜が光る白いソレは、とても美味しそうに見えた。
「おら、有難く食え」
親切心でやっている事は百も承知だが、所詮は恋人同士がやるアレだ。
「ハイ、アーンして?」とか言うアレ。
修兵は思わず桃と阿近を交互に見る。
なかなか食べようとしない修兵に焦れたのか、阿近は強行突破に出た。
「っむ、ぐぅ!?」
「食えってんだよ」
無理矢理口の中に押し込んだ。
口の中に広がる甘い味。
水分も一緒に流れてくるそれは、とても美味しかった。
(ものすごく大きくて咀嚼と飲み込みに多大な体力を使ったが)
「もう一個食うか?」
既に爪楊枝で取り出された桃がスタンバイしていたが、
今頃になってやっと薬が効いてきたのか、眠気に襲われ、軽く横に頭を振る。
それを見た阿近は、桃缶を薬と水の入ったコップが置かれているお盆の上に乗せた。
ずれた布団をかけ直し、額の温かくなってしまっている手拭いを取り替える。
ぽんぽん、と布団の上から胸の辺りを軽く叩く。
「眠れ。風邪をひいた時は寝るのが一番だ」
『眠っとけ、風邪を引いた時は寝るのが一番だからな』
一瞬ダブった昔の残像。
昔、あの人に言えなかった事を、ここで言ってみようか。
「、ぁこ…ん」
「あ?」
「…あり、が…とぅ………」
あなたにも届くといい。
あの時に言えなかったこの言葉が。
穏やかな顔で眠った修兵の汗で張り付いた前髪を退けてやる。
桃缶は口実。
本当は熱を出した君が心配だった。
ずっとはいられない。
だから、眠るまでは、傍に居てやる。
独りは嫌だと泣いていた君が、寂しくないように。
**********
「檜佐木が熱!?大丈夫なのか!?」
「え、マジ?弱ってる修兵を撮る、またと無いチャンスじゃな〜い!」
「風邪には温かい蜂蜜レモンが良いと聞いた」
「寒風摩擦すれば風邪なんかひかないぜ!」
「熱に苦しむ姿はさぞ美しいのだろうね」
「何じゃ、今日はお茶に誘おうと思っておったのに。残念じゃ」
「よし、後で栄養のある食べ物を持って行ってやろう!」
「それじゃあ僕は気付け用にお酒でも持って行ってあげようかね」
「お酒でしたら玉子酒が昔から良いと聞きます」
「……いや、そっとしておいてあげた方が…つーか、全員行く気っすか?」
さて、誰がどの台詞でしょう?
静様 5600キリリク『熱を出してみんなに心配される修兵』
正解は上から日番谷、乱菊、朽木隊長、一角、弓親、総隊長、浮竹、京楽、七緒でした。
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございません!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
静様のみお持ち帰り可です!キリリクありがとうございました!!