藍染たちの謀反(むほん)から数日が経ち、各隊の隊長・副隊長に招集がかかった。
隊長だけでなく副隊長も集められるとは何事か、と首を傾げつつ召集場所である一番隊舎へ向かう。
だがそこにいると思っていた隊長たちの姿はなく、副隊長のみしかいなかった。
I want to become the reason of your smile.
〜君の笑顔の理由になりたいんだ〜
「あ、先輩!これ何の集まりだか聞いてます?」
修兵が召集場所に着いたのを見て、挨拶もそこそこに真っ先に声をかけてきたのは恋次だった。
「知るかよ。何の説明もなく時間と場所だけしか告げられてないし」
「先輩も知らないんですか…朽木隊長は別の部屋だし。
まぁ、何も話してくれないのは今に始まった事じゃないんで慣れてて聞きそびれただけなんですけどね」
「お前……いや、何でも無い」
「?」
カラカラと笑う恋次に呆れつつ、朽木隊長に同情した。
朽木隊長が何も話さない訳が無い。
必要な事を話してても、恋次が覚えていないのだろう。
「…ん?隊長たちは別部屋なのか?」
「そうなんです。先に行くって自分だけさっさと出て行っちゃって」
「ふーん…」
恋次だけに話を聞いては何も分からないので、その場にいた他の人たちにも話を聞いてみる。
が、同様に「知らない」と首を振るだけだった。
「誰も知らねぇなら、待つしかないな」
「そっスね」
これ以上この話題を長引かせても無駄と判断し、当たり障りの無い会話を始める。
しばらくすると、扉の開く音がした。
その音に振り返ると、総隊長と別部屋にいた隊長たちが入ろうとしたところだった。
各々(おのおの)の場所に慌てて戻ろうとした修兵たちに、そのままで構わないと言ったのは山本総隊長だ。
「皆に集まってもらったのは、先の件で欠けていた三・五・九番隊の隊長が決まったからじゃ」
その言葉に恋次や乱菊たちが気遣う視線を寄越したのが分かり、苦笑する。
確かに受けた傷は深いものだったが、周りが思ってるほどではなく、吉良や雛森は分からないが
少なくとも修兵の中では既に整理がつき吹っ切れていた。
なので、新しい隊長と聞いても驚きはすれど、大した問題ではなかった。
山本総隊長の合図で入ってきた人物を見るまでは。
「三番隊隊長には鳳橋楼十郎」
「よろしくお願いするよ」
「五番隊隊長には平子真子」
「どぉーもー」
「九番隊隊長には六車拳西」
「よろしく」
「他五名、愛川羅武・七番隊、矢胴丸リサ・八番隊、久南白・九番隊、
猿柿ひよ里・十二番隊、有昭田鉢玄・鬼道衆、各隊へ配属する」
紹介された八人は、藍染たちとの戦いで現れた仮面の軍勢の人たちだった。
「…誰なんスかね、先ぱ……い?」
入ってきた八人を見て驚いたまま固まってる修兵に首を傾げる恋次。
「先ぱ…」
「修兵」
恋次が修兵の肩に手を置こうと伸ばした。
だが、違う場所から名前を呼ばれ、手は肩に触れることなく終わる。
名前を呼ばれて、我に返った修兵だが、まだどこか動揺している様子だ。
「ほ、本当に…本当に、拳西さん?」
「本当だ。…大きくなったな」
配属先の副隊長の所へそれぞれが近寄り、挨拶を交わす中、拳西と修兵の様子だけが違っていた。
修兵の頭に拳西の大きな手が乗せられ、わしゃわしゃと撫でると言うよりは、
かき回すと言った方が表現的に合ってる様に撫でられる。
その顔は恋次でさえも見た事もない程の嬉しそうな笑顔だったが、直ぐに歪むと拳西に抱きついた。
「お、おかえりなさいっ…俺、ずっと待ってました!」
「おう、悪かったな…」
「もう…何も言わず、消えないで…!」
「…ああ、約束する」
まるで恋人の再会だ、とは誰の台詞だったか。
日番谷、砕蜂、更木以外の隊長は二人の関係を知っているのか、驚く素振りも無ければ咎める様子も無い。
ただ優しく見守るように微笑みながら二人を見ていた。
「拳西さん!!」
「修兵、仕事中は隊長って呼べって何度言ったら…」
「白ちゃんは呼び捨てですよ?"さん"がついてるだけ俺の方がマシでしょ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「そんな事より、今日の夕飯どうします?」
「そうだな…て、おい。話を逸らすな」
「俺は修兵の作るもんやったら何でもええで」
「真子!テメェ、どっから湧いて出やがった!!」
「平子隊長、また来るんですか?」
「真子でええって言うてるやろ。やっぱ修兵のメシが一番美味いねん。拳西ばっか不公平や」
「何が不公平だ!来るんじゃねぇよ!!」
「真子が行くならオレも」
「ラブ!?」
「じゃあ僕もお邪魔するよ」
「ローズも!?」
「しゃーないからウチも行ったる」
「あたしも行くで」
「ひよ里!リサ!」
「じゃあ今日は鍋にしようかな…鉢玄さんもどうです?」
「でハ、お言葉に甘えマス」
「ハッチ!?」
「白も行くー!」
「お前ら全員来るなー!!」
「何でや!修兵の独り占めは許さへんで!」
「やっぱりそっちが本音か!」
「いいじゃないですか。皆で食べましょうよ、ね?」
「…仕方ねぇな」
あの日から数日が経ち、恋次をはじめ副隊長の面々は修兵の変わりっぷりに驚きを隠せないでいた。
そして本人に聞かれると色々とヤバイ、ある噂が流れている。
「最近の檜佐木さんの話、知ってるかい?」
たまたま食堂の前で会った恋次と吉良。
最初は他愛も無い仕事の話や新しい隊長の話をしていたのだが、珍しく吉良の方から修兵の話を切り出してきた。
「ああ…あの話だろ?耳にタコができそうだぜ…」
「僕も。仲が良いから知ってると勘違いされてるみたいで質問攻めさ」
「吉良もか…あー、俺の方が知りてぇよ」
「あの変わりっぷりは何だとか、彼ら八人との関係は何だとか……二人はできているのか、とかね」
「…六車隊長といるとニコニコしっぱなしな先輩とか、勘違いされてもおかしくねぇよな」
恋次の言葉に深く頷く吉良。
隊長が変わってストレスからくる胃痛が無くなったのか、最近は割りと食べるようになりデザートに取った
餡蜜を食べながら、ある事を思い出したのかポツリと呟く。
「そういえば、あの時驚いてない隊長たちもいたなぁ…」
その言葉に驚いた恋次。
「…俺、朽木隊長に聞いてみたけど知らぬって言われたぜ?」
「砕蜂隊長に日番谷隊長は驚いてたけど、京楽隊長、浮竹隊長、卯ノ花隊長、山本総隊長は笑っていたよ」
「よく覚えてるな、お前」
「考えてみなよ。驚いてたのは檜佐木さんと六車隊長との関係を知らなかったからで、
それ以外の隊長たちは知っていたんじゃないかな」
「なるほど…」
今度話を聞いてみるか、と修兵に密かに片思いをしている恋次がそう思いながらお茶を飲もうとした時、
どこから現れたのか、乱菊が割り入ってきた。
「もう聞いてきたわよ〜」
「ひ!?」
「ら、乱菊さん!?いつの間に!?」
「吉良の『最近の檜佐木さんの話〜』のあたりから?」
「ほとんど最初じゃないか…」
「何で気がつかないんだ、俺たち…」
軽くショックを受ける二人を余所に、乱菊は喋り始めた。
「何て言うか、修兵があそこまで露骨に大好きオーラ出してる相手、ていうので気になってね。浮竹隊長に聞いてみたのよ。
そしたら、六車隊長と修兵って101年前は家族同然な暮らしをしていたんですって。
虚に襲われていた修兵を助けた時に霊力がみられて、お持ち帰りされたらしいわよ」
「え?じゃあ先輩って流魂街出身じゃないんじゃ…?」
「院生の時から出身は流魂街でビンボーだって言って…」
恋次と吉良の疑問に、乱菊は人差し指を一本立ててさえぎる。
「話は最後まで聞きなさい。家族同然の暮らしは、ある日突然終わったの。
理由は言わなくても分かるわよね。彼らの虚化…藍染たちの仕業。
保護という形で暮らしていた二人だから、保護者である六車隊長がいなくなった数日後、
修兵は流魂街の治安は割と良い地区へ戻された、て訳」
その時の修兵を想像したのか、二人は苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「それであの時、おかえりなさいとか、待ってたとか言ってたのか…」
「この101年もの間、どんな気持ちで待っていたんだろう」
「修兵にとってそれだけ大切な人なのね…まぁ、明るくなったみたいだし良いじゃない!!」
バシバシと遠慮無く背中を叩かれる恋次。
その勢いに口に含んだお茶を噴出しそうになるも、なんとか堪えて飲み込む。
だが、乱菊にそっと囁かれた言葉には、流石に堪えきれず噴出してしまった。
「片思いの実は実りそうにないわね、恋次」
「ぶっほぉ!!!?」
「うわ!?ちょ、こっちに飛ばさないでくれよ!」
小羽様 5300キリリク『拳西達に育てられた修兵設定で仮面の軍勢護廷隊復帰話』
大変長らくお待たせ致しまして申し訳ございませんでした!!!!
このようなお話でよろしかったでしょうか;;
小羽様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!