「―――――と、言うわけで。まぁ、その内元に戻るんで、それまでは我慢してもらえませんかね?」
修兵の目が覚めたのは翌日。
阿近は修兵の体に起きた原因をその間に突き止めたが、薬がどうにも失敗作であり、
本来は口に入れても幼児化することは無いらしい。
とりあえず、目を覚ました修兵に事のあらましを説明する。
同時に副隊長のルキアも呼んで一緒に。
「そ、そんなぁ……その内っていつ!?」
「そうですよ!日常生活はどうするんですか?職務はちゃんと行えるんですか?」
「成長細胞の動きから計算すると約一年…霊力はそのままだし、記憶も起きてから分かったがそのまま。
何ら問題は無いと思いますが?」
「ざ、斬魄刀が握れないと実戦には問題あると思うけど…」
「隊長格が易々と実戦に出ないって知ってて聞いてるのか?」
「あ、ああ…はい、そうでしたね」
そもそもそのような物を出入りのある部屋の机の上に置いていた方が悪い。
一応、時間はかかるが元に戻るし、問題も然程(さほど)無いように思える。
本来なら今すぐにでも成長剤を作らせたいくらいだが、盛大に溜め息を吐くだけに止(とど)まった。
そして九番隊隊長が中身はそのままに、見た目が幼くなってしまったことは山本総隊長から
各隊隊長へと伝えられ、瞬く間に瀞霊廷全域に知れ渡った。
「あーあ、何が幸いかって原稿が全部終わってることだよな…」
「そうですね…修羅場はその体だと御辛いかもしれませんね」
「んー…いつもと目線が違って、朽木を見上げるって何か新鮮」
ほてほてと廊下をルキアと並んで歩く修兵。
ルキアは大きい方ではないが(むしろ小さい方に入る)今は修兵の方が断然小さい。
おそらく十一番隊副隊長と同じか、少し大きいかくらいだろう。
必然的に見上げることになる。
死覇装も白羽織もぶかぶかで大き過ぎる為、今着ているのは子供用の着流しだ。
急な事で、しかも特注サイズなので後ほど届けられるとのこと。
大きな目でルキアを見上げる修兵に、ルキアは抱き締めたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。
「私も檜佐木隊長を見上げないのだと思うと、少し新鮮で…そうですね、弟ができたみたいです」
ルキアの言葉で先程の隊首会を思い出す。
幼い頃の修兵を知っている山本総隊長・京楽・浮竹・卯ノ花・伊勢は、修兵の姿を見てそれぞれの行動を取って見せた。
山本総隊長は「昔に戻ったようじゃ」と笑いながら修兵の頭を撫で、
浮竹はすかさず飴を握らせた上、更に後でたくさん持ってくると言っていた。
京楽は「七緒ちゃんにもこんな時があったよねぇ」と言いながら伊勢の肩に手を置くが、
伊勢はそれを無言で薙ぎ払い「久しぶりに見たわ」と切れ長な目を緩(ゆる)ませて笑った。
卯ノ花は目線を修兵に合わせるためにしゃがみ込んで四番隊らしく
「何か少しでも不調を感じたら私の元にいらして下さい」と優しく笑い、修兵の頬を撫でた。
皆、一様に懐かしいと笑っていた。
「あ。資料室の片付けやんないといけないんだった…」
「そ、それなら私が…」
「俺が手伝いますよ」
ルキアの言葉に重なった別の声に驚いて後ろを振り返る。
そこにいたのは、二人が見慣れている人物。
「松崎殿!」
「朽木副隊長は一番上の棚まで届かないっすよね?」
「あ。そうだったな…では、任せるぞ」
「はいよ…いやー、それにしても。また可愛くなりましたねえ、隊長」
「うるせぇな…好きでなったんじゃねぇよ」
彼の名前は松崎菊雅(まつざききくまさ)、九番隊三席に就き、密かに九番隊のオカンと呼ばれている。
松崎は数枚の座布団を腕に抱えていた。
それにルキアが気付く。
「松崎殿、その座布団は…?」
「あ、これは隊長のですよ」
「俺の?」
「その姿じゃ机の高さが合わないでしょ」
「「ああ!」」
やっと意味が分かった二人に、松崎は肩を竦めて溜め息を吐いた。
これがオカンと呼ばれる所以(ゆえん)の一つだということに本人は気が付いていない。
松崎は修兵の椅子に座布団を置くと、修兵と資料室へ向かう。
九番隊にある資料室は主に瀞霊廷通信を編集する際に使用されている。
締め切り前の修羅場時なんかには、修兵の寝泊りの場にもなっていた。
その上、厖大(ぼうだい)な量の資料を全て把握している為、
あっちこっちに散乱した資料を元に戻すのは散らかした本人にしかできない仕事となっていた。
「…相変わらず、締め切り後の此処は汚いっすね〜」
「戻す時間さえ惜しいんだよ。俺は資料を拾ってお前に渡すから、指示する場所に仕舞ってくれ」
「りょーかいです」
資料と書き損じの紙で、足の踏み場も無いほど散らかっていた資料室は、
松崎の手伝いのお陰でいつもと変わらない時間で終えることができた。
その後も、過去の資料を取ろうとしたが、台を使っても届かないので、
分厚い資料を数冊足場に使って取ろうとした所を隊士に見られ苦笑されながら取ってもらったり、
前が見えないほど資料を抱えヨロヨロと廊下を蛇行しながら進んでいる所を見兼ねて半分持ってもらったり。
「…背が低いって大変だったんっすね」
しみじみと呟かれた声は、九番隊ではなくお隣の十番隊でだった。
十番隊に回す書類を届けに来ると、ちょうど乱菊と日番谷がお茶にしていた所だった。
時間を見て出直す、という修兵を引き止めてお茶を淹れさせたのは乱菊。
曰く、修兵の淹れるお茶はお店よりも玉露よりも美味い、とのこと。
「檜佐木」
その声に錆た蝶番(ちょうつがい)の音がしそうな動作で振り向く。
彼には身長の話はタブーとされていると聞いたのを思い出したからだ。
思っていたよりも、近くに日番谷の顔があり、咄嗟に後退りしようとしが、がっしりと肩を掴まれて動けない。
何をされるのか分からない不安で半ばパニックになった修兵はぎゅっと目を瞑る。
「…お前、結構チビなんだな」
「……へ?」
「俺より頭半分小さいじゃねーか」
言いながら日番谷は自分の頭から修兵の頭の上へ手をスライドさせる。
その顔は少しばかり嬉しそうだ。
「あの、…」
「もう少し休憩していけよ」
「………はい」
押し負けた修兵が再びソファへ座りなおした時、乱菊がお菓子を持って戻ってきた。
知らない内に疲れていたのか、結構な量のお菓子をぺろりと平らげる。
お腹が膨れて元気が出た修兵はそのまま書類配りに出ようとしたが、別の客が来た。
「乱菊さんいますか?」
「あら、恋次」
ひょっこりと顔を出したのは六番隊副隊長で、修兵の霊術院時代の後輩でもある恋次だった。
乱菊に書類を渡しに来たようで、期限に余裕はないから早く処理してくださいね、と念押しをしている。
「もう、分かったわよ」
「頼みましたよ…っと、先輩!」
「おう。ご苦労だな」
「そう思うなら、ご褒美に抱っこさせ…でえっ!」
「丁重に断らせてもらう。何が悲しくてヤローなんかに抱っこされないといけねーんだよ、シね」
お茶を運ぶ際に使われたのであろう、机の上に置かれていたお盆の裏面を恋次の顔面に思い切りぶつける。
鼻を押さえて痛みに悶えている姿を見て溜め息を吐く。
顔を見れば挨拶もそこそこに「抱っこさせて下さい」と言い寄ってくる。
「い、一回くらい抱っこさせてくれたっていいじゃないっすか…!」
「嫌に決まってるだろ!!俺にだってプライドの一つや二つあるんだよ!!」
「乱菊さんだったら二つ返事で了承するくせに!」
「当たり前だろ」
「俺にも抱っこさせて下さいよー!!」
「……日番谷隊長、乱菊さん、ご馳走様でした」
「ああ。また来い」
「またお茶淹れてね〜」
喚き散らす恋次を無視して立ち上がり、日番谷と乱菊に挨拶をしてから部屋を出ようとした。
だが、背中を向けた修兵に恋次は素早く手を伸ばす。
「敵に背を見せるなんて、甘いっすよ!!」
「……敵、ね」
くるりと振り返った修兵は笑顔だった。
それはそれは綺麗な笑顔だった。
「俺の霊力、元のまんまだって…知ってたか?」
「……え?」
「ついでに今、色々と精神的に限界なんだわ…俺」
「は?」
「破道の六十三、双蓮蒼火墜」
体から煙を上らせて倒れる恋次の周りには、いつの間にか張られていた縛道七十三・倒山晶。
それでも庇い切れなかった床は焦げたり、剥がれたりしている。
「あ、修理費は阿散井に請求して下さい。騒いで済みませんでした」
「…おう、気をつけてな」
小さくなっても隊長は、隊長だった。
スイ様 4000キリリク『69の意思を継ぐ者設定で、技局のせいで子修になって大騒ぎの話』
その他の人たちの反応があまり書けなかった上に、オリキャラすいません!!
隊長、副隊長以下は移動が激しいみたいなことが書いてあったので温めていたキャラです。
このようなお話になりましたが、よろしかったでしょうか。
スイ様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!