今日は久しぶりの非番。
でも、拳西は休みじゃないからいつも通りに起きた。
まだ寝てていい、て言われたけど、
いつもは一緒に出るから、今日くらいは「いってらっしゃい」って言いたいし。
ホリデイ・ホリデイ
洗濯物を干して、掃除も終わって。
一休みしようと縁側でぽかぽか日向ぼっこしながらお茶を飲む。
「今日は何しようかなぁ…」
足をぷらぷらと前後に振りながら空を見上げる。
見事なまでの晴天だ。
外で遊ぶのもいいかもしれない。
でも、どこに行こう?
「そうだ、蟹沢と青鹿と一緒にお昼食べに行こうかな。
浮竹隊長が具合悪いみたいだからお花摘んでお見舞い行って、海燕さんと遊んで〜…
そうだ!真子兄ちゃんとこも行こうかな。で、お仕事終わる頃に拳西のとこ行って一緒に帰ろ!」
そうと決まれば行動は早かった。
伝令神機で二人に連絡を取り、お昼になったらお弁当を持って霊術院近くの一本杉で食べる約束をする。
お弁当は修兵が外に遊びに行っても、わざわざ家に戻ってくる必要が無い様、拳西がお弁当を作ってくれた。
霊術院近くの一本杉までは、ここからだと少し距離があるが、今から出てのんびり歩いても十分間に合う。
台所に置いてあるお弁当を持って家を出る。
もちろん鍵はしっかり掛けて、失くさない様に首から垂らす。
「しゅっぱーつ!」
途中、擦れ違う隊士に声を掛けられ、お菓子をもらったりしながら一本杉を目指して歩く。
ぽかぽかと暖かい日向を、スキップをしながらルンルンと鼻歌を歌う。
時折、道の端に咲いている花をしゃがみ込んで見ていたり、タンポポの綿毛を息を吹きかけて飛ばしたりしながら。
蛇行しながら歩いていると、ちょうど良い時間に着いたようで、修兵とは逆の方から蟹沢と青鹿がやって来た。
「蟹沢ー!青鹿ー!」
ぶんぶんと大きく手を振る。
すると向こうも気が付いたのが手を振り返してくれた。
「修兵君、久しぶり!」
「久しぶりだな。少し身長伸びたか?」
「久しぶり!元気だった?」
わしゃわしゃと大きな手で修兵の頭を撫でる青鹿。
卒業してから何かと忙しく、会ったのは隊に書類を届けに行った時だったり、休憩の時だったりで
まともに話ができるような時間はなかった。
それも修兵が副隊長になると、自然に減っていった。
なので、こうしてお昼を一緒に食べるなんてことは、霊術院を卒業してから初めてだったりする。
それでも話が途切れずに弾むのは、それだけ仲が良いという証拠。
「しかし、こんなチビっ子が副隊長か…」
「これから大きくなるの!その内、青鹿なんか上から見下ろしてやる!」
「あはは!でも同学年で初の副隊長よ。凄いわよね。私でさえ、やっとこの前席官入りしたのに」
「俺なんかまだ平隊員だぞ」
「大丈夫だよ、二人なら!だって頑張ってるの、俺、知ってるよ!」
「そう?ありがとう。九番隊副隊長様の御墨付きね、私たち」
「ああ、自信が付くよ。ありがとな」
青鹿と蟹沢の真ん中に座り、拳西お手製のお弁当を食べる。
お互いの今の状況を話したり、どんな任務をしたなど情報交換もしっかりする。
修兵が最後に残しておいたエビフライを食べ終わると、
お昼の休憩は、そろそろ隊舎に戻らなければ間に合わない時間だった。
もっと話したいこともあったけれど、それはまた今度にして、二人を見送る。
修兵はその場に残り、ごろりと横になった。
しばらくそうしていると、よく知っている霊圧が近づいて来た。
「なんや、修兵やんけ」
「真子兄ちゃん」
眠そうな顔をした真子だった。
真子は寝転ぶ修兵の隣に同じように寝転ぶ。
「…真子兄ちゃん、お仕事は?」
「修兵までそないなこと言うんかい。俺はなぁ、昼飯食った後は眠くなるんや。
それくらい見逃してくれるよな、修兵は」
「サボり?」
「そうとも言うなぁ」
「ダメなんだよ、サボったら怒られるんだよ。白ちゃんも拳西に怒られてるよ」
「…しゃーないなぁ。20分や。20分したら戻るから起こしてーやー」
真子はそれだけ言うと、本格的に寝始めた。
修兵は困ったが、寝てしまったものは仕方ないし、隊長は仕事が大変だから疲れてるのかもしれないと思い、
そのまま寝かせてあげることにした。
だけど、子供にとって20分は長いもの。
いくら修兵が副隊長だからと言っても、子供には変わりない。
5分もしない内に寝ている真子を見ているのに飽きてしまい、何かないかと周りを見渡す。
「あ、チョウチョ!」
ちょうど修兵の視界に入った2匹の白い蝶。
ひらひらと舞うように飛ぶ蝶を捕まえようと空の弁当箱を持って駆け出す。
「待って!えい!」
ばしばしと叩き潰すような勢いで蝶を捕まえようとする修兵。
蝶も潰されては堪らないといった様子でひらりひらりとかわしていく。
気が付けば一本杉から大分離れた場所まで来ていたが、蝶に夢中の修兵は気が付かない。
その上、真子を起こすことを忘れていた。
「もー、そんなに高く飛んだら捕まえられないよー……」
ひらひらと逃げていってしまった蝶が小さくなって見えなくなるまで修兵はその場に立っていた。
しゅん、と頭を下げて項垂れる。
「…折角、浮竹隊長に見せようと思ったのに」
「うちの隊長がどうかしたのか?」
返ってきた返事に慌てて振り向く。
「か、海燕さん!」
「おーす!こんな所でどうしたんだ?」
十三番隊副隊長の志波海燕だった。
修兵の目線に合わせるようにしゃがみ込む。
「お昼を食べてね、その後、浮竹隊長のお見舞いに行こうと思ってたんだ。
でね、チョウチョが飛んでたから、捕まえて見せてあげようと思ったんだけど、逃げられちゃった…」
「そうかー」
再び、しゅんと項垂れてしまう修兵。
そんな修兵の頭をぽんぽん、と撫で、顔を上げた修兵に笑いかける。
「大丈夫だ、修兵。その蝶のことを話してあげれば隊長も喜ぶさ!」
「本当?」
「おう。俺が修兵に嘘言ったことがあるか?」
「ううん、ない!」
「だろ?」
「うん!じゃあ俺、いっぱいお話ししてくるね!」
「ああ、待て待て、俺も一緒に行く」
駆け出そうとした修兵をひょい、と抱き上げて歩き出す。
海燕にも今日あったことを楽しそうに話していた。
特に同期の友達との話が多かった。
部屋に着いても浮竹隊長からもらったお菓子を食べながら先ほど海燕にも話したことを最初から話す。
その間はずっと笑顔だった。
話を聞いているだけなのに、こちらまでも楽しく思えるような。
余程楽しかったのだろう。
その内、だんだんと船をこぎ始めた。
「修兵?眠いのか?」
「んーん…眠くない、よ」
「我慢しないでいいよ。少しここで寝ていけばいいさ」
「でも、浮竹隊長…具合悪い…」
「もう良くなったから、気にしないでいいんだよ」
浮竹と話している最中も頭が揺れている。
かなり限界の様子が見て取れた。
海燕はさっさと布団をしくと、修兵をそっと寝かせる。
もぞもぞと動いていたが、やがて落ち着いたのかすやすやと眠りに落ちた。
「こんなお子様が副隊長だなんて言われても信じられませんよねー」
「そうだな。でも、虚を前にした時や隊員の前だと、こんな子供のような仕草はしないようだよ」
「そりゃ新入隊員にとって上に子供が居たら不安ですもんね」
「その点を彼はよく理解している」
「頼もしいこった……でも、」
さらりと額にかかる髪をどけてやる。
普段は気を張って余計に疲れているだろうに。
決して弱音を吐かない強さ。
「非番の時くらいゆっくり休みゃーいいのに」
「本当にね」
「んー…んぅ?」
ごしごしと目を擦りながら、ぼんやりと目が覚めた。
浮竹と海燕と話をしていたのは覚えているが、その後が思い出せない。
状況から考えるに、寝てしまったのだと気が付いて、慌てて飛び起きると、海燕がちょうど入ってきた。
「お、起きたのか?」
「あああの、俺、俺…!」
「何慌ててるんだ、落ち着けよ」
隣に寝ていたはずの浮竹が居ない事に気付いて、入ってきた海燕に訊ねる。
「浮竹隊長は?」
「あー、あの人なら、修兵と喋ってたら調子が良くなったって仕事に戻ったぜ」
「良かった…あと、俺寝ちゃって、ごめんなさい」
「あー、違うぜ。謝るとこじゃねぇよな?」
「え?えっと…あ!ありがとうございました」
「よし!」
偉い偉い、と頭を撫でられる。
どこからかぼーん、ぼーん、と音が聞こえた。
その音にハッとする修兵。
「か、海燕さん!今何時!?俺、どれくらい寝てたの!?」
「えーっと、2時間くらいか?今は夕方5時だな」
「た、大変だ……!」
「何が…って、おい!修兵!?」
海燕に時間を確認した途端、慌てて部屋を飛び出す修兵。
海燕が後を追うも、瞬歩を使って移動した修兵にはもう追いつけない。
体が小さいからか、元からの才能かは分からないが、修兵の瞬歩は四楓院夜一の瞬神に
並ばずとも劣らずの早さだからだ。
瞬歩を使って、更に修兵だけの秘密の近道なども使い、目的地まで急ぐ。
もともと目的地までそんなに離れていなかったのもあるのか、そこには直ぐに着いた。
乱れた息を整えながら、霊圧を探る。
「……良かった、まだ…いた」
仕事の邪魔になるといけないので外に蹲って出てくるのを待つ。
定時で切り上げて帰ってくるのは知っている。
白からも衛島からも聞いていたからだ。
どしどしと大地を揺らすような歩き方をする足音と、修兵にとって安心する霊圧が近づいて来るのに気付くと、
自然と笑顔になる。
我慢し切れなくて、彼の前に勢い良く飛び出す。
「けんせー!!おかえりなさい!!」
「うおっ!?修兵!?」
いきなりなのに、落とすことも無く修兵を受け止める拳西。
ぎゅーっと抱きついて拳西の肩に額をぐりぐりと押し付ける。
まるで猫が飼い主に甘えているかのような光景だ。
「えへへ、お疲れさま!」
「ったく、家で待ってればいいのに…ただいま」
「一緒に買い物行くー!荷物持つの、手伝うー!」
「そうかよ、じゃあ今日もよろしくな」
わしゃわしゃと頭を撫でられ、もっとと言わんばかりにその手に頭を擦り付ける。
今日一日、色んな人に撫でてもらったけれど、やはり拳西の手が一番。
*おまけ*
「修兵、洗濯と掃除はどうした?」
「やったよ……あ」
「何だ?」
「洗濯物、干しっぱ…!」
「まぁ、そのくらいなら、帰ってから急いで取り込めばいいだろ」
「うん、ごめんなさい……あー!」
「今度は何だ?」
「……真子兄ちゃん起こすの忘れたぁ」
「……………それは放っておいて大丈夫だ」
七海様 3900キリリク『小さな副隊長の番外話で仔修の休暇の過ごし方』
普段は副隊長として頑張っているので休みの日くらい子供らしく、
院生時代の友人と過ごしたり、拳西・真子・海燕など大人が甘やかしてくれるのを希望、との事でしたが。
このようなお話でよろしかったでしょうか。
七海様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!
子供らしく、というとどうしても走り回っている事しか思いつきませんでした…orz