霊術院を卒業し、晴れて護廷十三隊の五番隊に入隊した阿散井、吉良、雛森。
入隊してからは覚えることが多く、また、雑用などであっちこっちに走り回っていた。
周りを落ち着いてみる余裕すらなかったので、初めてその光景を目の当たりにした時は本当に吃驚したのだ。









A mysterious person.




「檜佐木先輩、九番隊の五席になるんだって!」

大分、仕事にも隊にも慣れてきた頃のお昼休み。
雛森が少し興奮した様子で口を開く。

「五席!すごいなぁ先輩」
「あ、そういえば…この前書類持って来てたみたいだぜ。平子隊長と何か仲良さそうに話してたっけ」
「平子隊長と?」
「どうして?」
「さぁ?でも平子隊長と先輩ならありえなくないかな、なんて」
「ああ、平子隊長だしね…」
「そうだね」

どうせ平子が修兵にいつもの調子で話しかけたんだろうという事で納得した三人。
その後は他愛も無い話で過ごし、お昼の休憩が終わり、自隊に戻ろうとした途中の廊下。
角に修兵が立っており、それに気が付いた恋次が声を掛けた。

「檜佐木先輩!!」
「あ…?」

こちらに背を向けていたが、恋次が声を掛けたことで振り返った。
恋次達三人の姿を目に入れると少し驚いたようだった。

「阿散井、吉良、雛森か?」
「そうっす!」
「覚えていてくれたんですか!?」
「あたし達、五番隊に入ったんです!」
「五番隊かぁ…良い所だけど大変だろ。隊長が時々どっか行っちまうから」
「え、そうなんですか?」
「あれ?知らねぇの?」

嬉しそうに寄って来た三人を迎える修兵。
恋次達は覚えてもらえていたことに嬉しさを隠せなかった。
雛森が五番隊に入ったことを告げると、隊長である平子の意外な行動を言われて困惑する。
まだ平隊員とは言え、入ってから半年が経とうとしているのに、 自隊の隊長の知らないことがまだあったことに驚き、同時に何故修兵がそのようなことを知っているのか不思議に思う。

「先輩、何でそんなこと知ってるんですか?」
「確か九番隊ですよね、先輩は…」
「何でって、そりゃあ…俺はお前らより先にいるんだぜ?それにあの人のサボり癖は有名だし」
「そうなんスか?俺らは全然知りませんでしたけど」
「そ、その内嫌でも分かるさ」

少し慌て気味に答える修兵が怪しくて三人はますます不審がる。
更に詰め寄ろうとした時、後から来た者に遮られてしまった。

「修兵っ!!」
「っわ!?」

いきなり現れて修兵の肩に手を回して抱きついた。

「ちょ、離れて…離れて下さいよ!」
「俺はお前がいいって言うまで離さねぇぜ!」
「だからさっきも言ったじゃないですか!少しは自分の力でやって下さいって!!」

巻き付いていた手を取り、素早く屈んで抜けると、背負い投げの要領で相手を投げる。
ちゃんと三人の後輩が居る方とは逆に。
だが、相手は地面に叩きつけられる前に、空中でくるりと回転し体勢を整えて着地する。
その無駄な動きの無い着地にも、自分より大きい人を投げ飛ばす修兵にも驚く三人だったが、 投げ飛ばされた相手の顔が見えた途端、もっと驚くことになる。

「やったんだけどよぉ…何だよ、あれ。あの計算。ワケ解んねぇんだって」
「本当にちゃんと計算したんですか?海燕さんなら簡単にできる計算でしょ?」

十三番隊の副隊長、志波海燕だった。
副隊長と親しく話し、投げ飛ばしてもお咎め一つ無い修兵。

「どうしても合計が合わねぇんだよ。な、頼むよ!」
「仕方ないですね…教えるだけですよ?」
「サンキュー!マジ助かる!!」
「あ、お前らちゃんと時間までに隊に戻れよ!じゃあな」
「話しの途中に割り込んで悪かったな。じゃ、コイツ借りてくから!」
「あ、はい…」

ばたばたと嵐のように来て、嵐のように去って行った。
呆然とその方向を見る。

「何、今の…?」
「……さあ」
「…先輩がすごい人ってくらいしか分かんなかったけど」

三人は顔を見合わせるとそれぞれ溜め息を吐いた。

「戻ろうか…」
「そうだね…」
「おう…」




その後も隊長格と一緒に居る修兵をかなりの頻度で見かけた。
中でも平子、白と一緒に居るところが一番多い。
他には七番隊の愛川隊長と廊下を笑い合いながら歩いていたり、 三番隊の鳳橋隊長とは資料室から一緒に出てくるのを見たり、 八番隊の矢胴丸副隊長には何故か追いかけられていたり(女性死神協会がどうのって叫んでいたが詳細は不明だ)、 十二番隊の猿柿副隊長からは何か物をもらっていたり(ちょっと引きつった笑顔で受け取っていた)、 二番隊の四楓院隊長とはよく甘味屋のあたりで見かけたり、 それに偶に十二番隊兼技術開発局の浦原隊長も一緒にいたり。
朝と夕方の終業後にいつも一緒なのは九番隊の六車隊長だ。

「ねぇ、先輩って本当に何者…?」
「奇遇だな。俺もちょうど考えていたところだ」
「ちょっと気を付けて見ていただけで、ほとんどの隊長格と一緒にいるって、どうしてなんだろう?」
「先輩が護廷十三隊に入隊してから、俺たちが入隊するまでの間に、何かあったって事なんだと思う」
「それか、昔に何かあった…とか?」
「昔っていつだよ?」
「昔は昔さ」

考えても考えても堂々巡りのような気がしてきた吉良は、恋次にバレないようにこっそりと溜め息を吐いた。
止まっていた書類整理を再開する吉良の横で恋次はまだうんうん唸っている。

「あ、ちょうど良かった。そこの二人、こっちに来てくれないか?」
「「はい」」

書類を整理していると先輩隊士に声をかけられ、呼ばれた方へ近寄る。

「悪いんだけど、これから別件で出なきゃいけなくなってさ」
「はあ。大変っすね」
「うん。で、悪いんだけど、この資料とこっちの処理済の書類を九番隊に届けてほしいんだ」
「了解しました」

先輩隊士は急いでいたのか、吉良が了解すると、頼むぞ、とだけ言って直ぐに去って行った。
九番隊に届けものとはちょうど良い。
これを口実に修兵に会って理由をきいてやろうと考える吉良。

「阿散井君、これを届けに行った先で先輩がいたら聞いてみようよ」
「は?何を?」
「……今し方話してた、隊長格と一緒に居るのを頻繁に見掛ける理由をさ!」
「ああ!そうか、ならさっさと行こうぜ!」

資料は恋次が、書類は吉良がそれぞれ持って九番隊に向かった。
その先で何が起きるかも知らずに…。



程無くして九番隊に着いた二人。
瀞霊廷通信の編集・発行もしている九番隊は常に騒がしいのだが、その騒がしさとは別の怒声が響いていた。
何事かと覗き見る。

「白!!お前はまた、修兵に経費やらせただろ!!」
「だって白じゃ分かんないも〜ん!!海燕も修ちゃんにやってもらったってこの間言ってたし、 だったら白も修ちゃんにやってもらっても良いじゃんかぁ!」
「ダメに決まってんだろーが!!あれは副隊長がやるものだろ!!志波のヤローは後で一発…」
「ぶ〜!後ね、内緒だけど副隊長以下閲覧禁止とかの書類も偶にやってもらってるんだってー」
「…なんだと?」
「修ちゃんには何も言ってないみたいだけどぉ、ワザと混ぜちゃえば気が付かない事の方が多いって〜」
「……………」

修兵の事務処理能力が素晴らしいのは恋次も吉良も知っていた。
自隊に回ってきた書類を整理していて、読みやすく分かりやすいなぁと思う書類の大半は 修兵の判子が押してあるからだ。
何やら雲行きが怪しくなってきたので、さっさと書類と資料を置いて戻ろうとした時。
ちょうど席をはずしていたらしい修兵が戻ってきた。

「おう、阿散井に吉良。そんな所で何してんだ?」
「せせせ、先輩!!」
「雲行きが怪しいんで、今入らない方が良いっすよ!」
「はぁ?何言ってんだ?」

必死で止める二人に怪訝(けげん)な顔をする修兵。

「だから、六車隊長と久南副隊長が先輩が書類の作成を手伝ったとかで、言い争いをしてるんですよ!」
「今当事者のアンタが入るのは不味いでしょ!」
「またやってんの、あの二人…」
「…また?」

吉良が聞く限りの訳を話すと修兵は呆れ顔になった。
持っていた原稿を持ち直すと盛大な溜め息を吐く。

「大体は、ま…久南副隊長が原因なんだけど、しょっちゅうやってるんだ。お前らがあんまり気にすることじゃねぇよ」
「そうだな」
「「「!!!」」」

突然後ろから聞こえた声に驚く三人。
慌てて振り返ると腕を組んで仁王立ちする拳西の姿があった。
慣れていない恋次と吉良はその霊圧に圧倒され、竦み上がる。

「「む、六車隊長!」」
「修兵、お前また事務処理手伝ったんだってな…?」
「だ、だって、しつこいんですよ、海燕さん」
「…副隊長以下閲覧禁止書類もやったのか?」
「あ、いや…それは、偶々交ざっちゃってただけっていうか!事故みたいなもんで、気付かなかった俺も悪かったし…」
「ふーん?」
「でも、それ一回だけだったから!」
「…やったんだな?」
「………はい、申し訳御座いませんでした…」
「お前に怒ってるんじゃねぇんだ、謝るな…アイツのフルボッコが決まっただけだ」

ボキリ、ボキリと指の関節を鳴らす拳西。
後日、二人が語るには。
その時の拳西の顔は修羅か羅刹どころではなかった、と。
あれは正しく死神だった、と。




「ねぇねぇ、先輩がどうして隊長格の人たちと一緒にいるのか分かったよ!」

あれから数日後、食堂でご飯を食べいた時、雛森が口を開いた。
どうやら女性死神協会の先輩方に聞いたらしい。

「先輩、小さい頃に虚に襲われた所を六車隊長に助けてもらって、 その時、将来有望な霊力が見られるからって保護されてね、そのまま六車隊長に引き取られたんだって。 だから平子隊長も小さい頃から知ってて親しいし、六車隊長が忙しい時は十三番隊に預けられてたから、 志波副隊長とも浮竹隊長とも仲が良いんだって!後ね、技局の阿近って人とも仲が良いんだって… あたし技局は苦手なんだけど、何か凄いよね先輩って!」
「そうだったんだ…」
「じゃあ、護廷十三隊の隊長格は皆先輩のこと知ってて、親しいってことか?」
「多分、そうだと思うよ」

雛森が定食の焼き鮭を食べ終えると更に続けた。
吉良も恋次も食べ終わっていて、お茶を飲みながら話を聞く。

「それに、先輩って事務処理能力すごく高いじゃない?志波副隊長と久南副隊長が手伝ってほしいって 先輩に泣き付いてくるんだって!おかしいよね、副隊長の仕事を五席の先輩が手伝うんだよ。 でも先輩はそれができちゃうんだから本当に凄いよね!」
「そうだな…」

きらきらと目を輝かせて話を続ける雛森にただ相槌を打つしかない二人。

「それでね、平子隊長なんだけど、本当にサボり癖があるんだって。 うちの隊の人から聞いたんだけど、隊長がサボって居なくなったら、先輩にお願いすると 直ぐに戻ってきてちゃんと仕事するみたい」
「へー…先輩も大変だなぁ」
「でも文句言いつつ何だかんだで結局手伝ってる先輩って、甘いって事じゃない?」

吉良の尤もな意見に雛森は人差し指を横に振る。

「分かってないなぁ、吉良君は!ダメだよ、そんなんじゃあ!」
「ええ!?」
「甘いんじゃないのよ、優しいの!檜佐木先輩は皆に優しいのよ!」
「…そうなるのか?」
「だからね、あたし決めたの」

最後の味噌汁を飲み干し、器を置くと真剣な表情で二人を見る雛森。
その真剣な表情に思わず姿勢を正してしまう。

「あたし…悪の手から先輩を守る!」
「………はい?」
「きっと先輩は優しいから騙されたりすることもあると思うの!そんな悪の手からあたしが先輩を守る! 阿散井君も吉良君も、協力してね!」

きらきらと純真無垢な笑顔で言われて反論なんかできようか。
否、無理だ。
少なくとも、この二人には無理だった。
思わず頷いてしまった二人を見た雛森は、食べ終わった食器を持ってさっさと食堂を後にした。
後に残された二人はしばらく修兵と関わらない様にしようかと本気で悩んだとか。












レン様 3400キリリク『上位席官修兵+隊長、副隊長(原作仮面の軍勢)+海燕で 他の隊の隊長、副隊長と一緒にいる姿を見るので先輩は何者と不思議がっている恋次達(五番隊新人隊士)』
こんな感じでよろしかったでしょうか?
ちょいブラック雛ちゃんです。←
レン様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!
題の略は「不思議な人」です。

2009.05.24


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