虚に襲われていた所を助けて、色々あって後見人として引き取ることになった修兵。
小さな頃は子供が得意でない自分も思わず可愛いと思ってしまうような子だった(出逢った時は土や垢やらで汚れていたし、 顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃで不細工だったし、気が付かなかったが)
朽木のとこは生意気な餓鬼だったし、十二番隊の技局の阿近も子供らしからぬ言動。
引き取ることになった当初は正直、物凄く面倒なことになったと思っていた。
だが、引き取ってみると素直に言うことを聞き、大人しくて、教えたことは直ぐに飲み込む賢い奴だった。
だから霊術院に入りたいと言われた時は大して驚きはしなかった。
何れ(いづれ)入れようと思っていたし、そうなるだろうと予想していたから。
ただ…入学する前はまだ可愛い息子だったんだ。
長期休暇で家に戻ってくる度に、入学時は自分の肩ほどもなかった身長がにょきにょき伸びて、 それに比例するかのように幼い顔立ちから大人の色香を纏ったものに変わり、老若男女の誰もが認める美人に成長していった。
泣き虫で人見知りだった性格もいつの間にか克服して。
今思えば恐らく、この頃から修兵に対して、息子ではなくもっと別の感情を抱いていたんだ。









愛しちゃったんだよ!




今日は霊術院が長期休暇に入るため、修兵が一旦帰ってくる日だ。
それに合わせて冷蔵庫にはシュークリームと苺のケーキが入ってる。
見た目によらず、甘い物が好きなんだ。

「ただいまー!」
「おう、おかえり」

そうこうしている内に修兵が帰ってきた。
ぱたぱたと廊下を駆けてくる音が部屋の前で止まり、心配になるほど美人に育った修兵が入ってくる。
読んでいた(報告書などの修兵が見ても大丈夫な)書類から目を離す。
また身長が伸びたように見えるが、そろそろ止まるだろう。

「まだ夕飯の準備してないですよね?」
「ああ、お前が作ると思って何もしてねぇよ」
「良かった!ちょうど新しい料理教えてもらったんですよ。直ぐに作りますね!」
「んー、よろしく」

忙しなく動き回る修兵を尻目に、また書類に目を通す。
修兵が帰ってくる日は書類を持ち帰ることになる。
折角久しぶりに帰ってきたのに誰もいないと可哀想だと指摘されて以来、午後から非番にしているからだ。
帰り際に買い物をしてきたのか、荷物は大量だった。
手紙にも書いてあったが最近料理にはまったらしい。
前に帰ってきた時はハンバーグが出てきた。
台所から聞こえる包丁の音、水の音、食材の焼ける音。
何より修兵がこの家にいること。
それらが嬉しくもあり、愛しくもある。

「拳西さん、そろそろできるんでソコ片付けて下さい」
「おー」

処理済みの書類と未処理の書類を分かりやすく分けて纏めて自分の横に置く。
そのタイミングでお盆を持った修兵がやって来た。
最近出てきたエプロンを身に着けて。
拳西が着けると似合わないだの、罰ゲームみたいだのと言って爆笑されるものだが、修兵が着けると逆に似合いすぎて笑えない。
これは家に帰ってきた時だけ着ける家用にしろ、とキツク注意したこともあった。
その時の修兵は首を傾げて不服そうにしていたがこくりと頷いていた。

「…なんだ、これ?」
「ふっふっふーん。まぁ見てて下さい」

目の前に置かれた皿には、ケチャップご飯の上に卵焼きが乗っかってる。
修兵が、本当はナイフでやるんですけど、とボヤキながら包丁で卵焼きに切れ目を入れていく。
すると切れ目から半熟の卵がケチャップご飯を覆うように広がった。

「おおっ!?すげぇ!何だ今の!」
「すごいでしょ。オムライスって言うんですよ」

言いながら自分のも包丁で切れ目を入れる。
同じようにとろりと広がる半熟の卵に拳西はただ感心するばかりだ。
オムライスを食べながら修兵は霊術院で何があった、何ができるようになったなどを話していた。
拳西はそれを時々相槌や意見を言いながら聞く。
食べ終わった食器を流しに置き、風呂が沸いてるから先にと言われて、先に風呂に入る。
入る前に冷蔵庫にケーキが入ってることを伝えて。
拳西が風呂に入っている間に修兵は食器を洗って片付け、晩酌のお酒とつまみを用意した。
自分は冷蔵庫に入っていたケーキを出して食べる。

「うまっ!」

いつからか、甘い物が未だに好きなんだと手紙で書いてから、長期休暇で帰ってくると用意されている甘味。
甘くて美味しいのと、わざわざ自分の為に用意してくれる事が嬉しくて笑顔が零れる。
食べ終わったと同時に拳西が風呂から上がってきたので、入れ替えで風呂に入る。
拳西は用意されていたお酒とつまみを見つけてさっそく飲み始めた。
風呂上りの暑い体にキンキンに冷えたお酒がとても美味しく感じた。

「うめー…」

長期休暇で帰ってくる修兵が用意するお酒はいつも飲んでる物と変わらないのに、 なぜか修兵が用意すると美味しく感じる。
他の高いお酒を用意したのかと最初は思ったが、入れているところを見るとそうではないことが解った。
うまい、うまい、と飲み進めて修兵が風呂から上がる頃には中身はほとんど無くなっていた。
風呂から上がってきた修兵も交えてお酒を飲み、また他愛も無い話をする。
そうして何気なく時計を見ると結構いい時間になっていた。

「拳西さん、もう寝ないと」
「ん?…ああ、もうそんな時間か」

いつの間にか違う布団で、違う部屋で寝るようになった。
拳西の向かいの部屋が修兵の部屋になっている。
襖に手をかける前に修兵は拳西に向き直る。

「お休みなさい」
「おう、お休み」



―――――目の前の小さな修兵が笑っている。

『けんせー!けんせー、だいすきー!』

細い腕でぎゅうっと拳西に抱きつく。
その頭を撫でようと手を伸ばすと、小さな修兵は消えてしまった。

「…修兵?」

きょろきょろと周りを見ても居ない。

「修兵!」
『拳西さん』

後ろから聞こえた声に振り返る。
そこには大きく育った今の修兵が、 子供のような笑顔ではなく、綺麗な大人の笑顔で立っていた。

「ったく、どこ行ってたんだ」

心配した、と口にしようとした時、修兵は拳西に抱きついた。
そのままゆっくりと近づけられる顔。

「し、修へ……」

重なる唇。

『……好き、です…拳西さん』

恥ずかしげに少し俯いて、頬を桜色に染めた修兵。
儚げに伏せられた目は睫が以外に長いことを教えてくれた。
拳西が何も答えずにいると、修兵は泣きそうな顔で笑う。

『迷惑ですよね、俺…』

その言葉と同時に修兵が離れていく。
離れた修兵にやっと我に返ると、拳西は追いかけようとする。
だが、足は鉛のように重たく、追いかける事もままならない。

「待ってくれ!修兵!!俺は、―――――」



がばっと勢いよく起き上がる。
肩で息をしながら辺りを見回す。
いつもの部屋、いつもの風景。

「……ゆ、め?」

無意識に唇に手が伸びる。

「にしては、妙にリアルだったような…」

本当にキスをしたかのような感触が残っていた。
拳西はそのまま頭を抱える。
夢はその人の願望を写しているものであると聞いたことがあった。

「冗談キツイぜ……」

修兵が起こしに来るまで、拳西はずっとそのままのポーズでいた。



「はぁ…」

九番隊の上位席官達は朝から様子のおかしい自分達の隊長を見て怯えていた。
普段なら、きな粉のついたおはぎを食べている白に怒鳴り、書類の上で食べているので粉がその書類に零れているのに また怒鳴り、白の口答えでまた怒鳴り、と怒声が頻繁に飛ぶのに。
今日はそれがまだ一度も無い。
その代わり、溜め息が多かった。
触らぬ神に祟りなし。
全員の意見が心の中で一致していた。
締め切りがまだ先だというのがせめてもの救いだろうか。
だけれど、このままだと厄介なのも事実。
副隊長が遊んでばかりでは下の者に示しがつかないし、何より仕事が進まない。
その場にいた笠城、衛島、藤堂でこっそりジャンケンをして負けた衛島が事情を聞く事になった。

「(どうか死馬(しば)に蹴られませんように!)た、隊長」
「何だ?」
「あの、少し時間いいですか?」
「ああ。構わなねぇよ」
「ここじゃ話し難いんで…移動しましょう」

拳西を連れて滅多に使われ無い保管庫に行く。
念の為、鍵も掛けて中に入る。

「で、何だ話ってのは」
「それはこっちの台詞ですよ、隊長」
「…何が?」

どうやら気が付いてない拳西に朝からの様子を述べる。
だんだんと苦虫を噛み潰したような顔になっていく拳西。

「仕事に手が回らないほど悩んでる事があるなら、話を聞くだけでもできますので言って下さい」
「………情けねぇ話なんだけどな…」

ぽつぽつ話し始める拳西。
長期休暇で戻ってきていることは衛島だけでなく、九番隊全員が知っていることだ。
それは良くて、晩酌後に見た夢が良くなかった。
修兵から告白され、剰え(あまつさえ)キスまでされる夢を見てしまい、 起きてからは修兵を見ると唇に目が行ってしまう。
朝はそんな調子でろくに修兵の顔を見れなかった。
心臓も煩く鳴り、体温の上昇、頭に集まる熱。

「…これってやっぱり、その…」
「……恋、ですか」
「だよなぁ〜……ヤバいよな、これって…」

頭を抱えて盛大な溜め息を吐く拳西。
溜め息を吐きたいのは衛島の方だと言うのに。
頭痛がするのは気のせいだろうか。
米神に手を当てると、この場からさっさと開放されるよう頑張れと自分を叱咤する。

「隊長、それはヤバくなんて無いですよ」
「いや、お前…だって男同士だろ?その前に俺とアイツは家族も同然なんだ」
「でもそれ以前に、血の繋がらない他人なんです。男同士なんて今の時代珍しくないですし、 修兵君も美人に育ちましたからそういう対象に見られることも多くなってきたはずですよ。 霊術院に限らず、死神には男性の方がまだまだ多いんですから」
「…気持ち悪くないのか、そういうのは」
「好き同士なら全く問題無いんです。隊長と修兵君なら、大丈夫だと思います」

そう。
二人が鈍いだけで、傍から見て恋人と言われても納得できるくらい、お互いがお互いを好きであるのは確かなのだ。
それを自覚した途端、男同士だから、家族だからと悩んでも今更なのでは、と言いたい。
だからここでどしどし押して告白を促す。

「そ、そうか?」
「ええ。絶対」
「…さんきゅ」
「いえ、頑張って下さいね」

話はこれだけです、と言って衛島は先に退出する。
保管庫から出る前に、拳西は自分の頬をバシバシと叩いて気合を入れた。
きっと朝、ろくに話をしていなければ、目も合わせていなかっただろうから落ち込んでいるかもしれない。
そんな姿を思い浮かべながら執務室に戻る拳西。
以降はいつも通り元気に怒声が九番隊に響き渡った。



「ただいま」
「おかえりなさい!」

元気良く玄関まで迎えに来る修平。
どうやら朝のことは気にしていない様子の修兵にほっと胸を撫で下ろす。
そして昨日と同じように修兵の作った料理を食べ(今日は肉じゃがだった)、風呂の後、晩酌。
昨日と違うのは、修兵が風呂から上がってきてもお酒に口を付けない事。
つまみはちょいちょい食べているが。
不思議に思った修兵が首を傾げて見ている。

「…お酒、飲まないんですか?」
「ん、ああ…」

衛島に言われて修兵に想いを伝えてみようと思ったのだが、お酒の力は借りたくないと思った。
本当は借りたいくらい緊張しているが、酔った勢いで、と勘違いされたく無かったから。
落ち着かせようとつまみを食べるも隣にいる修兵に意識が向いて結局全部食べ終わっても落ち着くことはなく、 むしろ食べ終わっていた事すら気がつかないほど緊張していた。

「(畜生!なるようになれってんだ!)」

修兵に向き直る。
風呂上りで頬は桜色に染まっており、湿っている髪が項に張り付いて少し色っぽく見える。
暑いのか胸元は少し肌蹴ていた。
拳西にじっと見られて恥ずかしいのか、首を傾げてはにかむ。

「拳西さ、ん…!?」

目の前には修兵の驚いた顔。
唇にやわらかい感触。
はっと我に返ると慌てて離れる。

「…………」
「あ、あのな…家族としてはもちろんなんだが、恋愛感情で修兵の事が好きなんだ」
「恋愛感情で…?」
「おう。お前を困らせたい訳じゃないんだ。けど、本気なんだ」
「…うん」
「だから、ちゃんと考えて欲しい」

驚いたままの修兵を残して居間を去る拳西。
だから、拳西は知らない。
修兵が唇に手を当てて赤面していたことを。



次の日。
あの後よく眠れなかった修兵が拳西に合わせて起きれるはずも無く、 慌てて起き上がったが、拳西は既に仕事へ行ってしまっていた。
机の上には朝ご飯が置いてあり、洗濯は干せば良いだけになっていた。
用意してくれたご飯を食べ、後片付けもし、洗濯物を干す。
縁側に座り、風に揺れる洗濯物を見ながら考える。

長期休暇で家に帰る時はいつも胸が高鳴っていた。
拳西を一目でも見れればその日、一日は幸せ。
自分が作った料理を食べて美味いと言われると幸せ。
大きくて強い、けれど優しい手で頭を撫でられると幸せ。
昨日は吃驚したけれど。
拳西にキスされた事は、嫌だと思わなかった。
それは何故?
家族だから?
否、拳西だから。
それがしっくり来る。
乱暴で力が強くて強面で、でも、優しい。
大きな温かい手で頭を撫でられるのが大好きだった。
今も変わらず大好きだ。
拳西の傍はドキドキするけど安心する。
ここが自分の場所なんだ、と思える。

「家族愛じゃなくて…これは、恋…?」



今日に限って既に上がってきている原稿に問題があり、夜遅くに帰ってきた拳西。
家の明かりが点いてない事に疑問を持つが、玄関は開いていた。
玄関に修兵の草履があったので留守ではない様だが、家の中は全く電気が点いておらず、月明かりが無い分、外より暗いかもしれない。

「ただいまー…修兵?」

声をかけるも返事は無い。
玄関から移動し、居間に入って明かりを点けるが、机の上に茶碗が伏せて置かれているだけ。
居間から続く縁側の方の障子を開けると、月明かりを浴びながら膝を抱えて小さくなっている修兵を発見した。
声をかけようと近づいたとき、修兵から声をかけられる。

「おかえりなさい、拳西さん」
「ああ…」
「俺ね、ちゃんと考えたよ」

今日一日ずっと考えたんだ。
それでもよく分からなかった。
でも、拳西とのキスは嫌じゃなかった。

修兵はその間振り向きはしなかったが、伏せていた顔を月を見るように上げた。
拳西は修兵を抱きしめる。

「こういうことされて嫌か?」

静かに頭を横に振る。

「じゃあ…」

これは賭けだ。
嫌だと言われたら正直立ち直るのに時間がかかる。
だから、拒否られたらこれまでにして、少し距離を置こうと考えていた。

「じゃあ、もう一度……キスしてもいいか?」

少し間を置かれて頷く拳西から見れば小さな頭。
ゆっくり、今度は驚かさないように。
軽く触れ合う程度に触れてから離れると、修兵の目から涙が零れる。
途端に慌てふためく拳西。

「わ、悪い!泣くほど嫌だったのか!?」

ぶんぶんと頭を振る修兵。
その動きに合わせて舞う涙。

「ち、ちが!…何だろ、わか、んない…」
「そうか…」
「…わ、分かんない、けど……嬉しい?」

その言葉にぎゅっと修兵を抱きしめる拳西。

「…悪いけど、離してやれねぇぞ?」
「小さい時から離してもらった記憶がないんだけど」
「それもそうか」

くすくすと笑う修兵につられるように拳西も笑う。
そして目が合うと、もう一度キスをした。












葵様 3000キリリク『修兵を手に入れるために行動を起こす拳西』
息子としてではなく違う感情で修兵を意識している自分に焦る拳西と、 拳西の行動に戸惑い悩む修兵と言うことでしたが…こんな感じでよろしかったでしょうか?
葵様のみお持ち帰り可です。キリリクありがとうございました!!

これ書いてる最中に聞いた曲「●しみを●さしさに/lit●le b.y li●tle」が何か超ぴったりなCPだな拳修って、て思いました。 きっとこれも得意技の「私だけ」なんだろうなぁ。 この曲は大好きです。励まされる。そして声が可愛い。まるで●おろぎさと●さんのよう。 あ、一●の花でもあってるかもしれない。(伏字ばっか)

2009.05.24


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