目が覚めたら真っ白い部屋にいた。
寝たまま視線を動かして周りを見るが、小さな窓から月が見えるだけ。
体にだるさを感じたが、状況を把握するために起き上がる。
「っぅ、…」
くらりと眩暈がして片手で体を支え、もう片方の手で頭を抑える。
ゆらゆらと揺れる世界。
目を閉じてやり過ごそうとすると、ノック音がした。
「…目が覚めたのか」
「お前は……?」
入ってきたのは見知らぬ男。
目の下に走る一本の線に、頭半分のみの兜。
腰には刀を差している。
「ウルキオラだ」
「…俺、何で…ここは?」
「順を追って話す。だがその前に、付いて来い」
寝ていた大きなソファから下りて、ウルキオラに付いて行く。
途中、部屋に付いている鏡に映った自分の顔、左頬に違和感を感じたが、深く考えずに通り過ぎる。
Please, I watch only me, and do love only me?
「藍染様、檜佐木修兵をお連れしました」
「ご苦労」
連れてこられたのは大きな段の上に椅子のある部屋。
そこに座っていた人物である、藍染が立ち上がり修兵に近寄る。
「目が覚めたのか、修兵。気分はどうだい?」
「だ、大丈夫です。あの、俺…どうしたんですか?」
「ああ、記憶が飛んでしまっているんだね。可哀想に」
「記憶が飛んでる…?」
「修兵、君は死神達に捕まり監禁されていたんだ。すぐに助けに行ければ良かったのだけれど、霊圧を遮断されてしまっていてね。
なかなか、探り当てられなかったんだ。彼らに何をされたのかは分からないが、おそらく君を操ろうとしたのではないかな。
…怖かっただろう。もう、大丈夫だよ。迎えに行くのが遅くなってしまってすまなかったね」
さらりと修兵の髪を梳くように頭を撫でる藍染。
その表情は柔らかく、本当に心配していたのだと窺えた。
「……いえ、助けて頂けて嬉しいです。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「何を言ってるんだ。修兵は私にとって大切な存在だ。無事で何よりだよ。さあ、まだ休んでいなさい」
「はい」
「ウルキオラ、部屋まで案内してあげてくれ」
「はい」
歩き始めたウルキオラの後を付いて行く。
部屋を出る際に振り向き、藍染がまだこちらを見ているのを確認し、会釈をして出て行く。
なぜか少し驚いたような顔をしていたが、ふと笑って軽く手を振っていた。
長い廊下をウルキオラの後ろをただ黙って歩くのが気まずくなり、思い切って話しかけてみようかと考えている内に、部屋に着いたようだ。
「ここだ。この部屋の中でなら自由に動き回って構わない。外に行きたい時は俺を呼べ。決して一人では出歩くな」
「分かった」
案内された部屋は窓と、形は違うが大きなソファ、鏡は先ほどの部屋と同じで、新たにテーブルと椅子、カーペットが追加されていた。
修兵が部屋に入るなり扉を閉めて出て行こうとするウルキオラに気が付き、慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっと待って、ウルキオラ!」
「何だ」
「あ、いや、その……」
「…何だと聞いている」
咄嗟に引き止めてしまったものの、何か用事があるわけではなかった。
そして、もしかしたら忙しいのかもしれないと考えてしまい、捕まえておくのも気が引けてしまった。
だが引き止めてしまった以上、何でも無いで終わらすのもどんなものか。
「えーっと、少し…話し相手になってくんねぇ?」
「…………」
内心では自分に突っ込みを入れて自己嫌悪の嵐。
「(何言ってんの俺ぇー!!どこの乙女だよ!?引く!!ぜってぇ引く!…つーか何か喋ってくれ〜!!)」
無言で見られ(睨まれ?)冷や汗が滝のように背中を流れる。
「…何も話すことなど無いが?」
「(時間おいて返答ソレ!?)だ、だよなー、別に良いんだ!んじゃな!」
本気で理解できないというような顔をされてしまってはそれ以上は何も言えなかった。
ひらひらと手を振るとウルキオラは何も言わずに出て行った。
閉められたドアを見つめてベッドの代わりにもなる大きなソファに身を委ねようと近寄る。
途中、壁にかけられた鏡に気づき、先ほど感じた違和感を思い出す。
鏡に写る自分の左頬に触れる。
「…ここ、に何か"足りない"?」
自分自身の左頬に触れてみるも何かをした後は一切なく、普通の肌だ。
左耳の付け根から真っ直ぐ入っている刺青と、右目の三本傷以外はなにもないはず。
しかも、何故"足りない"と思ったのか。
何故死神に監禁されていたのか、何故起き上がった瞬間に酷い眩暈がしたのか、何故記憶が飛んだのか。
考え始めると次々に出てくる疑問点。
確か、尸魂界から虚圏に藍染さん、市丸さん、東仙さんと共に来て、それから…それから?
「、っう!」
思い出そうとすると頭が酷く痛んだ。
まさしく割れるような頭痛に見舞われ、よろよろと頭を抱えながらソファに沈む。
「何で…思い出せないんだ…っつ!」
「死神に記憶でもいじられたんだろ」
「!?」
独り言に返事が返って来たのに驚き、声のした方へ目だけを向ける。
ドアの横、壁に寄りかかりこちらを見ている水色の髪の男がいた。
「はっ、随分苦しそうだなぁ?檜佐木修兵」
「…誰」
「グリムジョー・ジャガージャックだ」
「…グリムジョー…」
「余計なこと考えてんじゃねぇよ。言われただろ、休めって」
「でも、」
「でもじゃねぇよ。黙って寝てればいいんだよテメーは」
「うわ!」
いつの間にか近寄ってきて、布を投げられる。
いきなりだった為に受け止められず顔にかかった。
慌てて引き剥がすと、それはただの布ではなく毛布だった。
グリムジョーの方を見ると既にドアを開く所。
「あ、ありがと!」
「…フン」
「藍染様」
「来たか…どうだい、修兵の様子は」
ウルキオラとグリムジョーが藍染の前に立つ。
「はい、若干記憶が残っているのか時折違和感を感じたり、何かの拍子で記憶を思い出そうとすると激しい頭痛に見舞われるようです。
それ以外は至って問題ないかと思われます」
「そうか。やはり全ての記憶を操作するのは難しいか」
「もう一度しますか?」
「いや、いいよ。ご苦労」
ウルキオラの提案を無しとして2人を下がらせる。
椅子の肘掛に肘を付いた手で顔を支え、口の端を上げて笑う。
「直に全て忘れて私の物になるさ。その為に織姫に69の刺青を消させて記憶も操作したんだ。
今まで待ったのだから、それを考えれば短いものだよ…」
小豆様 2800キリリク『藍染らに囚われ記憶操作された修兵と十刃の交流』
こんな感じですがよろしかったでしょうか?
小豆様のみお持ち帰り可、です。キリリクありがとうございました!!
題の略は「お願いだから僕だけを見て、僕だけを愛して?」です。