「白ぉーーーーーーーーーっ!!!!」
今日も九番隊から元気な怒声が響きわたった。
Hello!A small vice-captain!
「隊長落ち着いて!落ち着いて下さい!」
「あの書類は!あの書類だけは期限内に済ませろって何度も言っただろうが!!!」
「だって分かんないんだも〜ん」
「だからって紙飛行機にして遊ぶんじゃねぇ!!!他の奴に聞けばいいだろ!!」
「ぶ〜、修ちゃん今いないじゃん!!」
「あれは隊長格以下閲覧禁止書類だ!!」
「隊長落ち着いて下さいって!!」
今回の原因は副隊長である白が期限内に書類を提出しなかったこと。
こういう時の宥め役、修兵は現世調査で留守。
なので暴れようとする拳西を落ち着かせようと笠城が羽交い締めにする。
「だから言ってるじゃんかぁ!修ちゃんを副隊長にしてって!そしたら書類は全部やってくれるのに〜」
「久南副隊長、それは「分かった」
笠城が無理だと言う前に被る拳西の声。
急に大人しくなり、俯いたままで表情は伺えない。
「拳西?」
「笠城」
「…は、何ですか?」
「これから俺は修兵を副隊長にしに行く」
普段であれば却下やまだ無理などと言って流す言葉だった。
それを急に承諾したのだ。
これは怒りのメーターが吹っ切れてしまっているのだと判断した笠城は、手続きをしに行こうとする拳西を必死で止める。
「たたたたた、隊長!!冷静に!冷静になって下さい!!」
「っせぇ!俺は到って冷静だ!」
「(絶対違う!)修兵に何も言わずにってのはマズいですって!」
「アイツなら喜ぶだろうよ!」
笠城の努力も虚しく、静止を振り切ってしまう拳西。
いつの間にかいなくなった白。
一人部屋に残された笠城は痛む頭を押さえて長い溜め息をもらした。
二日間の現世調査を終えて尸魂界に帰ってきた修兵。
報告書を作成するため九番隊隊舎に向かっていた。
だんだんと近くになるにつれ騒がしくなるも、いつものことなので、調査資料から目を外さず周りの声はあまり聞いていなかった。
「あ、お疲れさまです。檜佐木副隊長」
「お疲れさま……………ん?」
執務室から書類を抱えた隊員が出てきて修兵に挨拶をした。
そこまでは二日前と同じだったが、呼び名に違和感を感じた。
……いつもより長かったような。
振り向いてみたが既に隊員の姿はそこにはなかった。
首を傾げながら執務室に入る。
「ただいま戻りました」
「おぅ」
執務室にいたのは拳西だけ。
副隊長である白の姿が見えないのは、またどこかへ遊びに行ってしまったのかと考え、自分の席に行こうとした。
「あ…あ〜、修兵」
「はい?」
名前を呼ばれ、拳西を振り返る。
落ち着かない様子で頭を掻きながらあっちこっちに目を泳がすのは、後ろめたい或いは言いにくい事があるときの拳西の癖だ。
それを見た修兵は、白と何かあって物を壊したのか、隊員に怪我をさせたのかと瞬時に思いついてしまった悪いパターンに、
自然と疑わしいものを見るような目つきになる。
「……白ちゃんとまたケンカしたの?」
「まぁ、そんなもんなんだが…聞いて驚くなよ?」
「うん」
「かねてからの白の希望もあって、だな?…副隊長の座を降りるにあたり……その、修兵、お前が副隊長になったんだ」
「……………え?」
一瞬、拳西に言われたことが理解できずに固まる修兵。
「お前がいない間に決めちまったことは謝る。いずれは、と考えていたのが…まぁ白の奴が我が儘言ったのもあって早まっちまった」
「………」
「…修兵、俺はお前の実力や事務能力が副隊長の席に劣ってるとは思わない。
ただ、もう少し縛られない位置で色々と学ばせてやりたかったから、先延ばしにしてたんだ」
「……ごめん、少し時間ちょうだい」
ふらふらと危なげな足取りで出て行く修兵。
少し不安定な霊圧が完全に遠ざかってから小さく溜め息をこぼす拳西。
その日の夜。
昼間に言われたことを考えて、なかなか寝付けずにいた修兵。
寝床から移動し縁側に座り、中途半端に欠けた月を見上げる。
自分は拳西に少しでも恩を返したくて自ら望んで死神になった。
強くて頭が良ければ少しでも拳西の力になれると思った。
でも、実際は他の人の手を借りないと出来ないことの方が多かった。
そんなまだ死神としては半人前な自分を隊の二番目の位置になど、認めてもらえるのだろうか。
拳西は劣っていないと言っていたけれど。
やはりまだ早いのではないかと考えてしまう。
「修兵?」
そんな、しょんぼりと背中を丸めて顔を伏せた修兵に声をかける人物がいた。
「…か、海燕さん!?」
「おーす!子供が起きてる時間じゃないぞ、どうした?」
寝間着の修兵に対し、海燕は死覇装のまま。
夜勤にしては時間が遅すぎるし、見回りと言うにも距離がありすぎる。
おそらくは残業した帰りだろう。
疲れているだろうに笑顔で塀の向こうから修兵の心配をする。
「うん、眠れなくて…」
「ははぁー。ズバリ当ててやろうか?」
「?」
「知らない内に副隊長になったことを考えて眠れない、だろ」
「な、なんで…」
「今噂になってるぜ?最年少副隊長だって」
海燕の言葉に上げていた顔をまた伏せてしまう。
伏せる前に見えた表情には不安がありありと表れていた。
「……何が、そんなに不安なんだ?」
なるべく優しく問いかける海燕。
「、が……」
「ん?」
「力、が…劣ってるわけでも、事務処理ができないわけでもないって、けんせーは言ってたけど……
もっと色んな事を経験させてやりたかったとも言ってた」
「おう」
「……それって俺には経験が少ないってことだよね」
経験が少ないから相応しくないとでも考えたのだろうか。
それだけ言うと修兵は黙ってしまった。
「経験なんかなくって当たり前だろ?」
「え?」
海燕の言葉に思わず顔を上げる修兵。
「俺だって経験なんかそんなになかったぜ?…ま!副隊長になってからでも遅くはねぇと思うけどな!この先時間なんて腐るほどある。
お前なんかは特にな。その歳で経験がないなんて言っても誰も責めやしねぇよ。これから経験していけばいいんだ」
「海燕さん…」
「困った事があれば俺のところに来いよ。この海燕様が特別に教えてやるからさ!」
「…うん!ありがとう!」
「ほらほら、話してた俺が言うのもなんだけど、夜更かしすると身長伸びねぇぞ!」
「えぇ!?やだ!」
やっと笑った修兵に少し脅かして早く寝るように仕向ける。
案の定、慌てた修兵は急いで寝床に戻ろうと襖に手をかけた。
だが、襖を開けたところで海燕に振り返った。
「海燕さん、おやすみなさい。それと、ありがとう」
「おう!おやすみ!」
翌朝、修兵が帰ってきたので、改めて副隊長になったことと、その挨拶が行われた。
隊長である拳西の横に立つ小さな修兵。
拳西に背中を押され促され、一歩前に出る。
「えっと…改めて、これから九番隊の副隊長になりました檜佐木修兵です。
初めは慣れない事ばかりで戸惑ってばかりかもしれませんが、九番隊の恥にならないように、
皆さんに迷惑ならないように頑張ります。よろしくおねがいします」
ぺこりと頭を下げると、隊員たちから拍手が送られる。
照れくさそうに頭を掻いて、ちらりと拳西を見ると同じく拍手をしていた。
「修ちゃーん!白の分も頑張ってね〜!!」
「自分の仕事くらい自分でやれ!!」
「え〜!ちょっとくらい、いいじゃ〜ん!!」
「何の為に入れ替わったか分からねぇだろ!!」
「拳西だって修ちゃんを副隊長にしたがってたじゃん!お互い様だよ〜!」
「白、てめぇ!!!」
さっそく騒ぎ始めた二人。
それを呆れた目で見るのは修兵と笠城。
「…副隊長の初仕事がこんなんで悪いが、頼む」
「任せて!」
自分の胸を叩いて、言い争い暴れる二人に近づく。
息を大きく吸った次の瞬間。
どこから出てるのか疑問に思うくらい、大きな声が響いた。
今までとあまり変わりない光景。
拳西と白が言い争って、それを宥める修兵。
3人を笑いながら(巻き込まれない様に遠巻きに)見守る隊員。
「取り越し苦労で終わったみたいだな」
月白様 2600キリリク『小さな副隊長の設定で修兵が副隊長に就任した時の話』
小さな副隊長の誕生秘話でした。こ、こんな感じですがよろしかったでしょうか?
月白様のみお持ち帰り可、です。キリリクありがとうございました!!
衛島さんよりも笠城さんの方が何かと苦労してそうなのは私だけでしょうか…。