貴方があの澄み切った青い空に消えていったことを考えたくなくて。

ひたすら仕事に没頭した。

そうしないと余計なことまで思い出してしまいそうだったから。









Why do you leave it?




ただ単に、隊長業務も兼任しているので忙しいのは嘘ではない。
必要な書類に目を通し、不備がなければ判を押し、処理済みの箱に入れ、 全て書類に判を押し終えると処理済みの書類を各隊に配りに行き、虚の討伐依頼がくれば自らが赴く。
戻ってきても休むことなく報告書を作成し討伐中に溜まった書類を片付ける。
自室に戻っても体は疲れて休息を欲しているのになかなか寝付けず、漸くうとうとしてきたかと思えば起床時間になりろくに眠れずにいた。

そんな状態の修兵に気付いたのは、同じ状況でありながら隊長のサボリが酷かったため業務に大した変わりはなかった吉良だった。
自分の隊に書類を届けに来た修兵を見た時に一目で分かり、それからは少しは休むように注意をするが軽くかわされてしまう。
そうしている内に、虚の討伐で軽いとは言え、怪我をするようになってしまった。
これは自分一人でどうにか出来る問題ではないと判断した吉良が相談した相手は、同期の阿散井だった。
しかし、阿散井は虚の討伐で怪我をした直後の修兵に会っている為、気が付いていたが、 休憩が駄目なら討伐で負った怪我をちゃんと四番隊で診てもらえと言っても、吉良同様にかわされていた。
そこで考えたのは、修兵が頼まれたら断れない人物、すなわち、乱菊から言ってもらえば、しぶしぶながらも休むかもしれないということだった。
早速それを乱菊に言うと、一緒にいた日番谷と駒村が険しい顔をする。
何故そんな顔をするのか分からない阿散井と吉良は顔を見合わせた。

「あのね、私達は九番隊の隣で、駒村隊長は九番隊と親しかったから隊長印が必要な書類は駒村隊長が引き受けていたのよ。 そんな身近にいて分からないとでも思ったの?」
「そ、それじゃあ…」
「えぇ。何度も何度も言ってるわよ。隊長命令で休ませようとしても駄目だったわ」
「…檜佐木さん、どうしたらやすんでくれるんでしょうか」
「さっき、浮竹隊長にも行ってもらったけど…逆に修兵の方が扱いが上手くて駄目ね。 小さい頃から知ってるだけあって上手く丸め込んでくれるかと思ったのに。 まぁ、疲れた時は甘いものだ、なんて言って両腕に抱えきれないほどのお菓子を持ってる時点で期待はしてないけど」
「あ、あはは…浮竹隊長らしいっすね」

乱菊のさり気ない毒舌に冷や汗をかいたのは阿散井と吉良だ。
日番谷と駒村は、いつものことだと聞き流しているのか、ああだこうだと策を練っているようす。
隊長と副隊長が集まって小さな会議を開けば周りの隊員達は気にはするものの、面子が面子なだけに関わらないよう足早に去って行く。
そんな中、わざわざその集まりに声を掛ける人が居た。

「………何してるんですか」

額に三つの角に、眉のない目つきの悪い目、白い白衣。

「あら、阿近じゃない」

太陽の光が似合わないことで有名な十二番隊の技術開発局局員、阿近だった。

「隊長格がそろいにそろって…そんなにお暇ですか」
「暇じゃないわ。会議よ、会議」
「…人通りのある廊下でやることがねぇ」

ニヤリと口の端を上げ、腕を組みながら笑う。
それは普通の免疫のない隊員なら逃げ出すような笑い方だが、悲しいかな。
生憎とこの場にいる者達は逃げ出しはしない程度に慣れてしまっている。

「予想は大体つきますが他でやって下さいよ。通行の邪魔です」
「失礼ね、恋次と吉良は後から来たんだから最初は邪魔なんかしてなかったのよ」
「乱菊さん、それって僕らが悪いように聞こえるんですが…」
「そんなことより、昼間に出てくるなんて珍しいじゃない!何かあったの?」

吉良の言葉をさらりと流し、阿近の肩をバシバシ叩く乱菊。
その手を自然な動作で防ぎ止めさせる。

「アンタ達の議論の中心人物に用事があるんですよ」

その台詞に、その場にいる五人は驚きに固まった。
いち早く復活したのは流石というか、一番冷静であろう日番谷だった。

「………檜佐木にか?」
「そうです」
「貴公が檜佐木に何用だ。内容によっては儂が受けるが?」
「あー…まぁ……そろそろアイツも限界でしょうから休ませようと。許可ももらってきましたし」
「え?阿近さんと先輩って仲良かったんスか?」

阿散井の独り言にも近い疑問を聞き、眉間に皺をぐっと寄せる。
はっきり言って鬼そのものの形相で一瞬たじろぐ。
そして何か思い当たったのか小さく頷いた。

「…あぁ、技局か部屋ばっかりだからか」
「何が?」
「浮竹隊長だけが幼少期からの付き合いじゃねぇってことですよ」

それだけ言うと阿近はすたすたと歩き始め九番隊の隊舎に向かう。
それを呆然と見送ると、数分後に5人分の叫びが辺りに響いた。






九番隊に着くと三席が阿近を天からの助けと言わんばかりに駆け寄ってきた。
その様子から修兵が大分無茶をしていることを感じ、縋るような目で見てくる三席に軽く頷く。
そのまま修兵の居る部屋まで行き、しばらく人を寄越すなと三席に伝え中に入り、 修兵の姿を見て阿近は先程までの自分に殺意が沸いた。

「阿近…?」

部屋に入ったまま動かない阿近に呼びかける修兵。
いつも露出している腕は簡単に折ってしまえそうなほどやせ細って、あちこちに巻かれた包帯が痛々しい。
阿近は無言で近寄ると、そっと、だけど力強く抱きしめた。

「あ、阿近!?」
「うるせぇ」

突然の行動に阿近の腕から逃れようともがく修兵に一喝。

「ったく、こんなんになるまで何我慢してるんだ」
「我慢なんか…」
「全部吐き出せ。泣き虫の癖にくだらねぇ意地はってんじゃねぇよ」

その一言で緊張の糸が切れたのか、ぼろぼろと涙を流しはじめる修兵。

「阿近に、何が…何が分かるん、だよ…!俺、副隊長なん、だから、泣ける訳ないだろ…!」
「そうだったな」
「…っひ、…ぅう……けんせー達の次は、っ東仙隊長まで…何で、みんな居なくなる、んだよ、っく、何で俺だけ、何で…何でだよぉ」

何で、と繰り返しながら泣き続ける修兵。
阿近はただ幼子をあやすように背中をぽんぽんと一定のリズムで叩く。
そうすれば元々疲れていた体は泣いたことも重なり、すとんと睡眠へ落ちていった。
涙が伝った頬を拭ってやる。

「俺だけは嫌だと言っても傍に居てやる」

大切な人たちに幾度と置いて行かれ、酷く傷ついた修兵にそっと誓う。
その言葉に修兵が笑った気がした。












雪花様 2000キリリク『お題の庇護欲と独占欲、相反する似通った要素の阿近+修兵の設定』
阿近になら弱っている姿をさらすことがでる修兵、という事でしたが…いかがでしょうか?
雪花様のみお持ち帰り可、です。キリリクありがとうございました!!
ちなみにタイトルは「どうして置いて行くの?」です。

2009.04.05


TOPへ