初めて卍解をしたのは目が痛くなるような青空の下。
鍛練中ではなく、かといって命の危険があったわけでもない。
強いて言うなら、あの大きくて温かい背中に追いつきたかったから。
69の意思を継ぐ者 -青い空に見守られて-
藍染達の裏切りの後、己の力量不足を悔やみ、暇を見つけてはひたすら鍛練と斬魄刀との対話、精神統一をしてきた。
人知れず黙々淡々と。
その日は席管入りを目標にしている部下に指南を頼まれて付き合っていた。
体術が苦手なんだと言っていた割には良い動きをするが、
足元にまで注意がいっておらず足を引っかけると簡単に倒れるのでそれを指摘すると、
以降は引っかけただけでは倒れなくなった。
組み手をしていると、部下の元に一匹の地獄蝶がひらひらと飛んできた。
どうやら書類に不備があったようで、直ぐに戻れとの事。
だが、気を使っているのか、こちらと地獄蝶とを交互に見てくる。
そんなところはまだ若いなと思い、心中で微笑む(三席だったらずけずけと言ってくる所だ)
「…呼ばれてるんだろ。俺はいいから早く戻ってやれ」
「は、はい!折角お付き合っていただいたのに申し訳ありません…また、指導をお願いしても良いですか?」
「あぁ、手が空いてる時にでも来い」
「ありがとうございます!では先に戻ります」
部下が隊舎に戻っていくのを見送り、一度体を伸ばす。
最近は書類業務ばかりで体を動かしたのは久しぶりだった。
筋肉痛など笑えないことにならないよう、筋を解してから戻ろうと思い、膝に手をついた時だ。
部下が走っていった方から虚の霊圧を感じたのは。
「っ、マジかよ…!」
瞬歩で現場まで急ぐが、虚は以外と近くにいた。
修兵が到着したのと同時に、先程の部下が(おそらく流魂街の)子供を守るように抱きしめ、木の幹に叩きつけられた。
部下も子供も気を失ったのか、身動き一つ無い。
虚は2人に止めを刺すため、鎌のような腕を振り上げ、風を切るように真っ直ぐ下ろす。
次の瞬間、赤い花が咲き乱れる…はずだったが、振り下ろされた鎌を、地面に片膝を付き、
斬魄刀を頭上に構え垂直に受け止める。
虚が一瞬動揺して、隙を見せたのを見逃さずに鎌の腕を切り落とす。
立場は逆転したが深紅の花吹雪が舞う中、煩く泣き喚く虚の後ろに見えた黒い影。
その見覚えのある影に修兵は目を見開いた。
―――――――最後にアイツに会ったのは自室。
瀞霊廷通信の締め切り間近で、くったくたに疲れて帰り、直ぐにでも寝ようとした時だった。
偶々敷きっぱなしにしてしまった布団の上に、二本の長い尻尾をゆらゆらと揺らす黒豹に近い見た目の生き物が、
我が物顔でくつろいでいた。
「…アレ?」
それはアイツから名前を聞いた時に見た姿と同じ姿。
動物に近い見た目の癖に表情があるのか。
くっと口の端を上げてニヤリと笑う(これがまた似合うのだ…動物なのに)
『久しいな、修兵』
ぱちぱちと音がしそうなくらい瞬きを繰り返すが、目の前の景色に変わりはない。
混乱と動揺でその場に立ち尽くす修兵にソレは当たり前のように話しかけた。
その声にやっと我に返る。
「あ、あぁ………久しぶり、風死」
名前を呼ばれたことが嬉しいのか、浅く何度も頷き、反芻する風死。
閉じていた目を開き、サファイア色の目で真っ直ぐ修兵見つめた。
『やはり修兵に名前を呼ばれるのは良い。
だが、お主が私を呼ぶことはほとんどない。私の想いはまだ届かないのか?』
「っ、…」
斬魄刀はいわば己の魂の化身。もう1人の自分と言ってもいいだろう。
そんな存在に遠回しに「力不足」とも取れるような事を言われて落ち込む。
「…悪い」
力不足であったのは例の一件で痛感している為、言い訳も出来ず素直に謝る。
だが、風死はサファイア色の目をきゅうっと細めると首を振った。
『いや、謝ってくれるな』
「……」
『私は修兵とこうして話しができるのが嬉しい』
「…風死」
『それに、これから修兵護りたいものを護る為に、私を必要とするだろう。
私は修兵に名を伝えた時から楽しみだった。次に会う時は……―――――――』
ぎり、と柄を握る手に力を込める。
「………仕方ねぇな」
溜め息混じりにそうこぼすと、いつの間にか隣にいる風死が笑った気がした。
いや、自分が笑っていた。
いっそ息苦しさを覚えるくらい、気持ちが高ぶっているのが分かる。
部下と子供は気絶しており起きる気配はなく、他にいるのは自分と虚だけ。
自然に口の端が上がる。
こんな気持ちになるのはいつ以来か。
示し合わせた訳でもないのに、そろった声が青空の下に響く。
「『卍解!』」
「これより新任の儀を執り行う」
一番隊に集まった全隊の隊長・副隊長。
山本元柳斎と向かい合う形で正面に立つのは、少し緊張気味の修兵。
「七日前、抜けた各隊長の穴を埋めるべく、新隊長選任を開始し各隊長・副隊長に通達。
翌日、十三番隊隊長浮竹十四郎の推薦により九番隊副隊長を召喚した。
そして先日、この山本元柳斎並びに隊長三名立会いの下、隊首試験にて隊長資格を検分。
その能力・人格に申し分無しと決論した」
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
次の、任命を言われた瞬間からは、己が一隊を纏めて行くのだ。
半端無い緊張に手に汗が滲んだ。
だが、任命されたからには、それなりの覚悟を持っているつもりだ。
心の中で何度も自分を叱咤する。
「ここに元・九番隊副隊長檜佐木修兵を、九番隊新隊長に任ずるものとする」
かつての69の意思が、
復活した瞬間だった―――――――
瑞樹様 1600キリリク『修兵+風死(具象化)69の意思を継ぐ者の修兵で卍解習得までの特訓中から隊長就任の話』
隊首試験はまだどんなものかわからないので飛ばした上に、特訓してる様子もなく、全くリクに添えてる感がありません…。
こんなものでよろしければお受け取りください。瑞樹様のみお持ち帰り可です。
リクありがとうございました。