最初の条件の通り、肉体的、精神的に回復したと診断され、霊術院に入学することになった。
ただ、護廷十三隊で保護されていた者が試験を受けずに入学しては、
周りに示しが付かないと言う理由で、保護されていた事を隠し、周りと同じ試験を受けての入学だった。
………二度、落ちてのだが。
小さな院生
入学して直ぐにその若さから、修兵は好奇の的となった。
休み時間になると同期をはじめ修兵を一目見ようと院生が教室に集まってくる。
それらに耐えられず、号令が終わると共に教室を飛び出す。
お陰で瞬歩は直ぐに取得したが。
向かう場所はいつも決まって小丘に生えている大木。
樹齢は不明だが太い幹から考えると500以上はありそうだった。
小柄な修兵が大木に登ってしまえば青々と茂った葉が、その姿を覆い隠し、どこにいるかなど判断できない。
そうして飽きられるのを待つ日々が続き、入学から二月が過ぎた。
この頃になるとわざわざ教室に修兵を見に来る者はいなくなったが、
入学してからほとんど教室にいなかった(いれなかった)為に、周りから浮いていた。
そして、特進学級の修兵達は魂葬の実践授業で現世に行くことになった。
門の前に一回生と、今回先導にあたる六回生が集まる。
現世では三人一組で行動の為、予め教室で引いたクジに書いてある記号と同じ記号の人と組を作る。
修兵と一緒になったのは大柄な男子と、頭の横で髪を結んでいる女子だった。
「檜佐木です…よ、よろしく」
軽く会釈をして挨拶をする。
蟹沢は俯きぎみの修平に合わせてしゃがみ込み、顔をのぞき込む。
「こちらこそ、よろしく。私は蟹沢よ」
「俺は青鹿だ。よろしくな」
青鹿が大きな手で修兵の頭を撫でる。
微笑みかけてくれている事が嬉しくて、修兵も自然と笑っていた。
「何か思っていたよりも簡単だったわね」
「俺はもっと面倒くさいものかと思ってたな」
二人が話しているのを聞きながら、修兵は周りを見渡す。
何か嫌な予感がしてならない。
チリチリと首の後ろが痺れる様な。
「…どうかしたの?」
きょろきょろと落ち着き無く周りを見る修兵に蟹沢が声をかける。
「…何か、嫌な感じがする」
「?」
「分かんないけど…モヤモヤする」
自分の胸の辺りをぎゅっと掴んで俯く修兵。
二人は顔を見合わせる。
だが、修兵の言う嫌な感じは二人には感じ取れていない。
「大丈夫だ。何も起きないで帰れるさ」
「そうよ、きっと気のせいよ」
「う、ん…」
青鹿に頭を撫でられて宥められる。
そして最後の組の魂葬が終わり、集合がかけられた。
全員が集まったその瞬間。
蛇のような虚が突然姿を現した。
「巨大虚だ!!!!」
「う、うわああああああああっ!!!!」
「落ち着け一年共!!」
恐怖でパニックになり逃げ惑う一年。
六年の一人が落ち着かせようとするも
虚の泣き声がそれを掻き消し更に恐怖を煽る。
虚はそんな一年を長い尻尾を鞭のように振るい薙ぎ払おうとした。
「"君臨者よ"!"血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ"!"焦熱と争乱""海隔て逆巻き南へと歩を進めよ"!
破道の三十一、赤火砲!!!」
ドン!と大きな音を響かせてそれは虚の尻尾に当たり、
攻撃が当たろうとしていた一年はその場にへたり込んでしまい、
何が起こったのか頭が付いて来ていないのか、
ぼんやりと破道の飛んできた先を辿り背後を見やる。
そこにいたのは、小さな体の修兵だった。
「座るな!立て!!」
その小さな体のどこから出ているのか、修兵の言葉は彼の耳に真っ直ぐ届いた。
近づいてきた修兵に腕を引っ張られて漸く正気に返る。
「今、先輩が尸魂界に救援要請したから、もう少ししたら救援が来る。それまで頑張れ」
「…お、おう」
彼が頷き、自分の足で立ち上がったのを確認し、その場から去る。
向かう先は散り散りに逃げる同期達の元。
青鹿や蟹沢も修兵と同様に同期の一人一人に声をかけて落ち着かせていた。
そして一年を一箇所に集め、同じ方へ逃げるように指示をした後、
虚の気を引いている先輩の元へ近づく。
「先輩!指示通り、一回生の避難は完了しました!」
「そうか。よし、俺らも退くぞ!後は救援に任せ…」
「危ない!!」
その声にハッとなり、背後を振り返ると虚の尻尾の先が迫っていた。
避けるには気が付いたのが遅すぎた。
もう駄目だ、と諦めて来るであろう衝撃に身を硬くする。
「吹っ飛ばせ、断地風」
その声に目を見開いたのは修兵だけじゃなかった。
短めの銀髪に、注連縄のような腰帯。
腹部にある69の刺青。
「九番隊…六車隊長……久南、副隊長…」
「遅くなってごめんね〜」
「他の奴らは一足先に尸魂界に戻した。お前らはちょっと待ってろ」
その後姿は、あの時助けてくれた時の後姿とダブって、
思わず名前を呼んでしまいそうになった。
今は気安く呼んではいけない。
今更になって、自分との差を見せ付けられたような気がした。
これで彼に助けられたのは二度目。
三度目が無いように、もっともっと強くならなければ。
彼が巨大虚と戦う姿を目に焼き付け、ぎゅっと強く手を握った。
「檜佐木くん!!」
「檜佐木!」
巨大虚を倒し、尸魂界に戻ると青鹿と蟹沢が駆け寄ってきた。
「怪我は?どこか痛い所ない?怖くなかった?」
「だ、大丈夫…どこも怪我してないよ」
「そう…良かった」
ぺたぺたと体を触ってチェックをし、修兵の言葉に安堵した蟹沢は小さな体を抱きしめた。
「か、蟹沢さん…?」
「私の方がお姉さんなのに、すごいね。よく怖くなかったね」
修兵を抱きしめるその手が、少し震えていた。
声も、ほんの少しだけ。
そっと蟹沢の背中に手を回す。
ぽんぽん、と優しく落ち着かせるように叩く。
「俺、流魂街に居た時に虚に襲われたことがあるんだ。
それで、その時にも死神に助けてもらった。
その人がね、俺の名前が強そうだって言ってくれて、
その時、名前に恥じない勇気を持とうって思ったんだ。
それに…死神になるのに、今から怖がっていられないでしょ?」
その言葉は意表外だったらしく、青鹿と蟹沢は顔を見合わせると笑い出した。
修兵は訳が分からずきょとんとしている。
「そうね、そうだったわ…死神を目指しているのにね、私たち」
「今から怖がってたら死神になっても怖いままだな」
「…うん!」
会話は聞こえないが、頭を撫でてもらい、笑っている修兵を見て、
拳西と白は安心していた。
自分たちが救援に駆けつけた時は上級生と一緒にいたから、
てっきりクラスに馴染めずにいるのかと思ってしまった。
苛められていたら、と思うと心配で夜も眠れなかったが、
同期に囲まれている所を見る限りではそんな心配はいらないようだった。
「修ちゃん笑ってるね、拳西」
「ああ」
「…まだ心配?」
「もう、ねぇよ」
「じゃあ今夜はぐっすり眠れるね!」
「っせぇ!帰るぞ、白」
「ほーい」
その場から去る間際に一度だけ振り返ると、修兵と目が合った。
それだけでお互い、何が言いたいかが分かってしまい、拳西は思わず口の端を上げて笑う。
"心配しないで大丈夫"
"あんまり無茶はするな"
黒葉様 1300キリリク『小さな副隊長設定で仔修が院生のときの話』
小さな副隊長の番外編的な話、という事でしたが。いかがでしょうか…?
黒葉様のみお持ち帰り可、です。キリリクありがとうございました!!