一護の話を聞いていたら、思っていたよりも時間が過ぎていた。
少し急ぎ足である場所へ向かう修兵。









籠の中の遊戯




天井付近にある小さな格子から夕日の赤い光が差し込み、暗い部屋を少しだけ明るくする。
手枷に足枷を付けられて座敷牢のような場所に座りこんでいるのは小柄な少女。

「朽木ルキア様」

静かな空間に突如響いた人の声。
驚いて顔を上げてみるも人の姿どころか影も形も無い。
聞き間違えたのだろうか、そう思った瞬間、格子の向こう側に人を見つけた。

「誰だ?」
「名乗れる程の者では御座いませぬ」
「では、そのような者が何故このような所へ来ている…貴様、何者だ?」
「いえ、本当に名乗れぬのです。ご無礼をお許し下さいませ」
「…いいだろう」
「有難う御座います」
「用は何だ、早く言え」

跪き項垂れていた顔を上げて、にこり、笑う(と言っても目元しか見えないが)と、悪気も無く言い放つ。

「用など御座いませぬ」
「…は?」

これには驚愕するしかなかった。
開いた口が塞がらないとは、今正にこの状態を言うのだろう。

「なら、何をしに…」
「貴女様の御顔を拝見したく思いまして」
「私の…顔、を?」
「はい。免罪と分かっていながらも罪人として捕まっている方の御顔は一体どのような表情をしていらっしゃるのかと…」
「なっ!」
「怒りで染め上げられているのかと思えば…つまらない。無表情とは…」
「貴様!」
「がっかりです。失望しました」
「ふん!名も名乗れぬような低俗の輩に失望されようが、私は痛くも痒くも無い。むしろ良い様だ!」
「何か誤解をされていらっしゃるようですね?」
「…何だと?」

肩を竦め、やれやれと言った風に息を吐き、首を傾げる。

「城下町の橙色の少年と話をしました」
「!!」
「彼はとても真っ直ぐで、貴女様を助けたいのだと、悪いのは話を聞きだした自分だと、仰っていました」
「………」
「その彼と約束してしまいましてね」
「…何をだ」
「貴女様を助けると」
「、な!!」
「ところが囚われの姫がこんな生気の抜けた面晒して、死ぬ覚悟はできてるみたいな顔されちゃあ、 約束も違えちゃいそうだなぁ。何より、腸が煮えくり返りますね」
「そ、れは…」

目の前の人物が何故こんな場所に来たのか分かって、上げていた顔は再び俯いてしまった。
格子を握る手は、力を入れすぎて白くなっている。

「分かっています。貴女様が喚いた所で状況が良くならない事ぐらい。 俺は少年以外にも約束してる事があるんです。 その人の名前は言えないけど、まあ天に近い狸様とでも言っておきますか。 貴女様は明日、重要機密事項を洩らした罪として斬罪される予定です。 でも、その時を同じにして裏で動いてる人たちがいます。恐らく、貴女様が薄々気づいている方たちです。 俺はその人たちに影を潜り込ませているので、俺自身は自由に動けます。 明日は貴女様を助けつつ今回の悪事を暴き、未然に防ぐよう狸様から仰せつかってます。 ですので、くれぐれも余計な行動はしないで下さいね。これは注意ではなく、警告です。いいですね? では、明日また会いましょう」

捲くし立てる様に話すだけ話して消えてしまった人物。
最初に来た時とがらりと人柄が変わっていたのにも気付かないほど、ルキアは驚いていた。

「狸様って…、この国は狸が治めていたのか!?」

…彼女はとても優秀だが、天然なのが偶に傷だったりする。

「…とりあえず、明日は流れに身を任せれば良いのか?」


斬罪の刻限まで、あと少し。












修兵とルキアは身分が違います。
ルキアは貴族で護廷隊の隊員なので唯の傭兵の修兵は敬語を使わないと無礼者ってなりますw

2010.11.9


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