沢山の人で賑わう城下町「瀞霊」。
これは瀞霊にある、とある甘味処の亭主のお話し。









籠の中の遊戯




「修兵さん、こっちにお団子二つね〜」
「はい、畏まりました」

修兵と呼ばれた青年は甘味処「うさぎ」の亭主だ。
城下町でもお城に近い場所に店を構えているのにも関わらず繁盛しているのは、 甘味が上手いのもあるが、修兵の見た目も少なからず影響しているのだろう。
その証拠に店内で団子や餡蜜を食べていくのは女性達ばかりだ。
外の長椅子くらいなら男性でも食べていくが、女性だけだとやはり入り辛いのだろう。
そんな中、来店を告げる鈴の音が響く。

「いらっしゃ…やあ、旦那じゃないですか」
「よう、相変わらず女ばっかだなこの店は」

入ってきたのは数少ない男の常連客。
名を阿近という。
着流しを着ていながら、腰には刀を差しているところから侍だと見て取れるが、 それ以上は何も分からない不思議な人だった。

「奥の部屋で待ってて下さいね。何か食べます?」
「毎回言うが、甘い物は得意じゃないんだ。茶だけでいい」
「そんな事言って、出したら出したで食べるくせにぃ」
「甘くなけりゃ食える。先行ってるぞ」
「…じゃあよもぎ団子かな。さっぱり甘い餡子付けてみよ〜」

いつも店内ではなく、奥にあるらしい部屋に通されるのも不思議だった。

「修兵さん、奥にも部屋があるの?」
「ん?ああ、あの人ちょっと訳有りで、通りから見える場所では食べたくないみたいなんです。 だから、特別に奥に通してるんです」
「私達も頼めば奥で食べれるのかしら?」

頬を少し赤らめ、遠慮がちに聞いてくるお客ににこりと微笑む。

「すみません。奥は俺の家になってるんで、女性の方を上げるのは遠慮させて下さい」

申し訳なさそうに、少し上目遣いでそう言うとお客は残念だわ、と言いながら勘定を済まして帰って行った。
他の客も聞き耳を立てていたのを修兵は知っている。


表の暖簾を下ろす際に、戸に【本日終了】の張り紙をしておく。
店内に暖簾を置いて、お茶とよもぎ団子を持って奥の部屋へ向かう。

「お待たせ。よもぎの団子持ってきたよ」
「…いらねぇって言っただろ。ったく」
「まぁまぁ、文句は食べてからにしてよ。はい、どうぞ」

団子とお茶を置いた机に白い紙が置いてあるのに気がつく。
それを手にとってみるが、何も言わないことからコレが今回の伝令なのだと分かった。
適度に冷まされたお茶を啜りながら団子を食べる阿近の横で、内容を読むと同時に暗記する。
全て読み終わると蝋燭で火をつけて燃やしてしまう。

「よく一度で暗記できるな」
「まあ、俺ですから」
「そうか。じゃあ俺はこれで」
「はい、またどうぞ」
「ああ…怪我でもしたら団子の分だけ診てやるよ」

にやりと意地の悪い笑顔を残して裏口から出て行く阿近。
きょとん、としていた修兵だが、言われた言葉を理解すると吹き出した。
それは阿近の姿も気配も随分離れてからだった為、阿近に聞こえることはない。

「はははっ、遠まわしに心配してるって言われちゃったよ!」

腹を抱えて笑い転げる修兵。

「素直じゃねぇの…なぁ、風死」

部屋の縁側から見える木にとまる烏に向かって声をかけると、まるで人の言葉がわかるかのようにカァ、と一鳴きした。
縁側に座り込んだ修兵の足元に降り立つ。

「山本殿はまた俺を使いたいんだって。こんな頻繁に呼び出されちゃ、商売上がったりなんだけど」

修兵が烏の頭に手を翳すと、するり、影に戻るかのように消えた。

「…そんなに自分の部下は頼りないのかね?それとも、大事にし過ぎて危ない事させたくないとか?」

どちらにしろ愚かだな、クスクスと笑って修兵も影に戻るように消えた。


とある武家屋敷。
辺りは夜中ということもあり寝静まっている中、一室だけ蝋燭の明かりが漏れていた。
中にいるのは城に使えているそれなりに地位のある人間三人。
どうやら密会をしているらしい。
ひそひそと抑えられた声が聞こえる。
三人のいる部屋の天井に潜み、針穴程の大きさの隙間から様子を窺(うかが)う。

「…では、少女の斬罪(ざんざい)の刻限、城の警備が手薄になる時に」
「そうだね、要。ギン、君は…」
「分かってますってぇ、藍染はん。僕は広場で見張り、やろ?」
「彼らに動きがあれば直ぐに連絡も忘れずに……では、当日まではいつも通りで過ごす。いいね?」
「はい」
「はぁい」

話が終わり動き出した三人よりも素早く天井から移動する。
少女の斬罪の刻限には心当たりがあった。
お城に使える十三の各隊、十三番隊に所属する少女「朽木ルキア」。
六番隊の隊長の義理の妹であるが、町民に秘密厳守の情報を漏らしたとして牢に入れられていた。
斬罪だと決まったのはつい最近だ。
修兵が自分で手に入れた情報では、秘密厳守といえる程の情報は漏らしていない。
ただ、ルキアが仲良くなった少年に仕事の愚痴を零す程度だったはずだ。
その少女が斬罪と聞いて驚いたのは記憶に新しい。
紙にサラサラと筆を走らせ、いつの間にか修兵の横にいる烏、風死の足に結び付ける。

「山本殿の所まで頼むな。後から俺も行くから」

カァ、と一鳴きして飛び立つ風死を見送った後、修兵は自宅へ走った。
今夜だけで終わりそうな内容ではない為、店に張り紙をしておかねばお客に迷惑をかけてしまうからだ。

「休んだ分の売り上げは山本殿に請求してやる…」












舞台は「なんちゃって江戸」です。

2010.07.27


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