ログ3(暴力表現に注意して下さい)




初めて会った時から、腕や顔などに怪我が絶えない子供だった。
最初は活発で落ち着きがないのか、喧嘩っ早いのだと思っていた。

拳西が大学に通うのに一人暮らしを始め、そのアパートの隣に住んでいたのが修兵と母親だった。
引っ越しの挨拶に行ったときに出てきたのは修兵。
どう見積もっても、中学生か高校生の修兵が一人暮らしな訳がない。
親はいないのかと聞けば男の所だと言われてメマイがした。
その日は一緒に引っ越し蕎麦を食べて終わったが、元来からの面倒見の良さがコウを成し、 何度か家に招いている内に家族のような仲になった。
だからこそ、それに気付けたのかもしれない。

「おう、修兵!また怪我したのか?」
「おはよう。ちょっとね…」
「気を付けろよ?最近頻繁じゃねぇか…もしかして喧嘩でも売られてんのか?」
「…まあ、そんなとこ」

朝のゴミ出しに出ようとドアを開けると、隣のドアも同じタイミングで開いた。
修兵が学校へ行く時間だからだ。
そっと音を立てないように鍵を閉める修兵の手の甲には、昨日まではなかったはずの白い包帯が巻かれていた。
ゴミ置き場まで一緒に行き、そのまま修兵は学校へ行く。
拳西は修兵を見送ってから部屋へ戻る。



「……」

大学の食堂で、多めに盛られたご飯を目の前にして眉間に皺を寄せて携帯を眺める。
食堂は丁度お昼時で賑わい、混雑しているというのに、拳西の座っているテーブルには誰も座ろうとしない。
そんな拳西に近づく人影。

「何難しい顔してんねん、拳西」
「…真子か」

トレーを置き、拳西の前に座る。

「早よ食べんと時間無くなるで?」
「分かってる」

食堂の日替わり500円ランチ(ちなみに今日は豚カツとご飯、味噌汁、サラダのセット)を食べ始める真子。
真子の言うとおり、午後からも講義があるので早く食べないと講義に遅刻してしまうだろう。
だが、返事をしただけで携帯から目を離さない。

「何やねん。ずっと携帯ばっか見よって。昼間からエロサイトでも見てるんか?」
「ばっ!違ぇ!!」
「じゃあ、彼女か?」
「なんでそこで彼女が出てくるってか、そもそもいねぇよ!」
「まぁそんなんどうでもええねん。珍しく悩んどるようやったから、俺が相談役を買ってやろうと思うてなぁ」
「……いや、お前に相談しても、な…」

ずるずる、音を立てて味噌汁を飲み干す真子。
苦悩している様子の拳西を、ちらり、一瞬だけ見る。

「言うだけ言ってみ。なんか力になれるかもしれんやろ」
「そう、だな…まだ確定してるわけじゃないんだが、俺の隣に住んでる親がどうも自分の子供を虐待をしてるみたいで… 修兵、あ、子供の名前な。修兵の体には怪我が多くて、 夜っても明け方に近い時間に怒鳴り声とか物音とかが頻繁に聞こえて、 それを聞いた次の日は絶対に怪我が増えてるんだ…俺が気づいてるって修兵は知らない。 話が怪我に触れると困ったような顔するし、聞かない方が良いのかってくらい怯える感じだし… 最初俺が何か言おうとしたら、先に"転んでぶつけた"とか言うんだ。 ぶつけてできるような傷じゃなくても…それに、絶対ろくに食べてない。 ろっ骨が浮き出て手首なんか折れちまいそうに細ぇんだ。健康な高校生男子の細さじゃねぇ…… これって警察に言った方が良いと思うか?」

長々と聞いたが、真子も判断しがたいものだった。
虐待の判断はとても難しく、本人が否定してしまえば虐待にならず、物的証拠もない為、下手に動けないのだ。
拳西の話によれば、子供は親を庇う言動を見せている。
きっと警察を呼んだところで注意をされて終わるだろう。

「…いや、相談で終いやろうな」
「……そうか…」
「まあ、飯の方は俺らで何とかなるやろ」
「そうだな。朝と昼は弁当渡してやればいいだろ、夜は俺の方に…ん?俺ら?」

真子の言葉に引っかかって思わず聞き返す。

「何や文句あるんか?力になる言うたやろ」
「真子…」
「アイツ等も巻き込んで夕飯は順繰りにしたらちょっとは楽やろ。よし、したら今日は拳西の家で焼き肉や!」
「はぁ!?何で焼き肉になるんだ、つか今日!?」
「善は急げや。ほな、ごちそーさん。先行くで〜」
「ちょ、待ちやがれ真子ぃ!!!」



正面玄関で待ち合わせをして羅武、ローズ、リサ、白、ひよ里のいつものメンバーが集まった。
ハッチだけは用事があり今度となったが。
各々(おのおの)には簡単に説明をしてある。
拳西としてはあまり巻き込みたくない人物たちであるが、この場合仕方ない。
そろそろ修兵も家に帰る頃だ。
今日はバイトはないはず。
わいわい騒ぎながら(主にひよ里と真子が)買い物をして帰宅する。
その前に修兵を誘ってからと思い、インターホンを二回連続で押してからドアを開けて中に入る。
この時間だと母親は男のとこだと以前に聞いており、二回連続でインターホンを鳴らすのを合図にした。
勝手知ったる他人の家。
だが、今日は様子が違った。
まず玄関に真っ赤なピンヒールがあること。
すっ飛んできて拳西を出迎える修兵の姿がないこと。
そして、奥の部屋から激しい物音と、怒鳴り声。
いっきに血の気が引いて、物音のする部屋へ走る。

「ちょ!拳西!?」
「こらアカンわ…リサ、警察と救急車」
「任しとき」
「ローズはタオルと救急箱、拳西の部屋から持ってこい」
「白とひよ里と羅武は俺と一緒に拳西のとこや」
「仕方ねぇな」
「ねぇねぇ、何が起きてるのぉ〜?」
「説明は後や」
「え〜!焼き肉は?」
「それも後!」
「ぶー!ケチ!」

緊張の欠片もない白に脱力しかけると、拳西が部屋の入り口で固まっているのを見つけた。

「拳西?何固まっとる…ん、や!?」
「「「!!?」」」

拳西が見て固まっている部屋の惨状を見て、同じく驚愕し固まる四人。
修兵の部屋なのだろうが、壁に血が飛び散っていたり、刃物で切りつけられた教科書とカバンが散らかっていた。
その中にピクリとも動かないで横たわる修兵。
頭部周辺に血溜まりができている。
母親は血の付いた包丁を持ったまま、こちらを覇気のない目で見ているが、 少しでも近付こうとすれば切りかかってきそうな雰囲気だ。
どこか怪我をしてるのなら早く手当をしなければ。
焦る拳西達の耳にぶつぶつと呟きが聞こえた。

「…私は、悪くないわ……悪くないのよ…悪いのは、アンタよ…アンタが、 生まれたから…あの人は…アンタの所為よ……何もかも、アンタが…アンタなんか死ねば良かったのよ…!!」
「!?」
「っんだと…!」

責任を修兵に押しつけようとするだけではなく、血の繋がった自分の子供に死ねば良いなどと、 ヒステリックに叫ぶ母親に、最初にブチ切れたのは、やはりというか拳西だった。

「てめぇ!自分の息子に何て事言いやがる!」
「自分勝手にも程があるで!!アンタの都合で産んどいて、 アンタの都合で捨てるなんて母親以前に人間として失格や!!」

拳西の怒声で我に返ったひよ里もキツく罵(ののし)る。
声に驚いたのか、母親は、ビクリ、肩を揺らして持っていた包丁を落とした。
それを好機と思い、真子は素早く母親に近寄ると、包丁を拳西達の方に蹴飛ばした。
そこからの連係プレーは見事なもので、蹴飛ばされた包丁を更に白が上に蹴飛ばし天井に突き刺さり、 羅武は母親が暴れたりしないように後ろから羽交い締めにし、 拳西は修兵を母親から離す為血が付くのも構わず抱き抱え部屋を移動した。
移動したのは居間の玄関に近い場所。
拳西が修兵を下ろすとリサとローズがタイミングよく入ってきた。

「拳西、いくら君が丈夫だからって救急箱と中身はそろえて置くものだよ」
「隣がコンビニでなかったらもっと時間かかってたで」
「文句は後だ後!早く寄越せ!」
「「!!」」

修兵の怪我を見て息を飲む二人。
右半面が血で染まっており、よく見ると瞼の上を走っていて、出血はまだ止まっておらず、傷の深さを物語っていた。

「さっき警察と救急車呼んどいてるから、もう少ししたら来るはずや」
「くそっ、早く来いよ…!」

白いタオルを当てて止血を試みるも、全体を真っ赤に染めるほどぐっしょり吸い取り、直ぐ役に立たなくなる。
赤に染まっていない半面は血色が悪く青白く、手はひんやりと冷たい。

「…死ぬなよ、修兵」












続きそうな感じですが続きません。
虐待、という言葉を見て修兵が虐待されたらどうだろうと思い至っての殴り書き。
好きな子ほどイジメたくなるんです…orz
いや、不幸が似合いそうな修兵が悪い←

2010/05/03のエムブロの小ネタより

2010.07.27


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