ログ2
恋次が九番隊に来たのは、朝に急ぎの書類を届けに来たのと、今、
期日までわりと余裕のある書類を届けに来たので二度目だ。
だが、朝一で顔を見た時には存在しなかった黒縁の眼鏡と、左目の眼帯を見て頭を傾げた。
「…右目だけだと字が見難くて」
「あ、ああ…そっか。左目はどうしたんですか?」
院生時代に顔の右側を額から顎まではしる大怪我を負った所為で、
右目の視力を失ってしまった修兵は、技術開発局の阿近が特別に作ってくれた義眼を入れている。
霊力を使い視神経を繋げて見えるようにしている仕組みで、
使う霊力は微量ということもあり、視力は常人と比べると落ちる。
けれども、両目で見る分には私生活や仕事に支障をきたす事もなく動けるくらい見えているのだ。
「……まあ、朝からゴロゴロすんなぁ、とか…思ってたんだけどよ…」
「?」
言い難そうにモゴモゴと言葉を濁しながらそっと、眼帯の上から左目を触る。
「放って置いたら、その…昼頃から腫れてきて…」
「腫れて!?ちょ、ちゃんと四番隊行ったんですか!?」
「うるせぇな、行ったっつーの」
「どうだったんスか?」
真剣に心配して見つめる恋次の視線から逃げるようにあちらこちらに視線を漂わせて、
あーとか、うーとか、言葉をなかなか発しようとしない修兵に焦れる。
だがここで催促すると話がずれていってしまって、うまく誤魔化されるのは経験済みである。
辛抱強く聞く体勢で待っていると、諦めそうに無い恋次に折れたのか、溜め息と共にポツリと漏らした。
「……ぃだって」
「え?何だって?」
「だから!物貰いだって!!」
ポカンとする恋次を置いて、余程恥ずかしいのか顔を手で覆い、机の下に潜ろうとする修兵。
修兵が机の下に完全に潜る前に我に返った恋次は慌てて引き戻す。
「ちょ、何隠れようとしてるんですか!」
「だって、どんな状態か見せろって言うだろ?嫌だね、見せるもんか!」
「いや確かに見たいとは思いましたけど、嫌だって言うなら無理に見ないですって」
「こんな、こんな……よりによってこんな時にぃぃぃいいっっ!!!!」
「え!?せ、先輩!!?」
顔を覆っていた手を頭に移動させて、髪をぐしゃぐしゃに掻き回し、ヒステリック気味に叫びだす。
一瞬慌てた恋次だったが、歯軋りに似たような音を出しながら
涙目で机の上の書類を睨んでいるのを見て、合点が付いた。
「…今度は誰が締め切り守ってくれなかったんですか?」
「乱菊さん!乱菊さんだ!どんなにせっついても毎回毎回守ってくれなくて…!」
「そうですか…事情話したら協力的になってくれるかもしれないですよ?」
「……あの乱菊さんが?」
「たまに優しいじゃないですか!」
「………そうかな?」
「そうですよ!だから頑張って下さいね!挫けたら駄目ですよ?」
「そうだな。そうだよな!じゃあ俺、今から行ってくる!」
そう言うなり、瞬歩を使って移動した修兵。
一人部屋に残った恋次は机の上に持ってきた書類を置いて、部屋を出る。
「…締め切り10日前か。すっかり忘れてた」
次は締め切り明けに来よう、と心に誓った恋次だった。
締め切りを毎回守らないのは乱菊さん。
毎回締め切り10日前くらいから躁鬱っぽくなる。
だから扱い難くて恋次君はあまりその期間は近寄らないようにしてます。
折角の眼鏡姿が廃れて見えちゃうんですね。
2009/11/13のエムブロの小ネタより